第132話 決着 大泥人形!
ポチとシャロンが懸命に、大泥人形へと向かって駆け出した俺の中に魔力を送り込んでくれて……そうして感じたのは以前にも、クロコマが符術を見せてくれた時に感じたコボルト臭さだった。
「コボルト臭ぇ」
と、小さく漏らすと、耳ざといポチやシャロンが抗議のつもりなのか俺の背中や頭をべしべしと叩いてきて……そんな風に叩かれながら駆け進む俺は、大きな核に合わせた形となった大泥人形を睨みつける。
今までは寸胴といった感じの体格だったのだが、大きな核を覆うためか腹が膨れ上がったような体格になっていて……そんな体を作り上げるためか未だにその表面が蠢き続けている。
だがそれもすぐに終わるはず、終わったならまたあの突進攻撃を繰り返してくるはず。
そうなる前に一撃……全力を込めての渾身の一撃を放ってやろうと心に決めていた俺は、ポチとシャロンにぽこすかと殴られながら泥人形へと一気に迫る。
するとどういう訳か、核を貫いてやろうと突きの型に構えた黒刀が光を放ち始める。
元々ダンジョン産の素材で作った訳の分からねぇ刀ではあったが、まさかこんな重要な場面で更なる訳の分からなさを発揮しちまうとは……!
と、そんな風に俺が焦る中、黒刀の刃が白銀色に輝き始め……輝くだけでなく俺やポチ達の魔力を吸い上げ始める。
「ぼ、僕の小刀に似た光……!
た、多分大丈夫です、狼月さん、そのまま行っちゃってください!!」
「パッシブ魔法が弱まってしまう前に、アイツに一撃を!!」
そんな黒刀の様子を見てか、ポチとシャロンがそう声を上げてきて……俺は黒刀改め、白銀刀となったそれを蠢きながらこちらに対応しようとしている大泥人形の、巨大核を抱えた腹へと全力で突き出す。
駆ける俺を見て大泥人形は、その両手でもって俺を殴り飛ばそうとしていたようだが、拳の動きさえもが重々しく、動き出しがすっとろいという有様で……白銀刀はそんな大泥人形の土手っ腹へとぶち当たり、あっという間に泥の表皮を貫き、巨大核へと迫る。
すると大泥人形は巨大核を砕かれまいと、体中の泥を蠢かせ、魔力と力を腹へと集約させ……そうして泥を腹に集めて圧縮し、硬質化させようとし始める。
そうやって白銀刀を押し留め、そのまま白銀刀を絡め取ってやるくらいの腹積もりなのだろう、実際に白銀刀の動きが鈍り始め、それを受けて俺は止められてたまるかと更に力を込め……そうしてポチとシャロンが『いけーーーー!』と異口同音に絶叫に近い声を上げる。
そんな二人の声を受けてなのか、それとも俺が力を込めたからなのか、白銀刀の切っ先から吸い上げられた魔力が放出されて……あっという間に泥も巨大核をも貫き、閃光が泥人形の背後にて炸裂し……奥にあったダンジョンの見えない壁にぶち当たる。
「やったか……?」
さっきにも言ったような言葉を、刀を突き立てたままの俺が吐き出す。
閃光を放ったせいなのか白銀刀は黒刀へと戻ってしまっていて……黒い輝きを取り戻した黒刀は、泥人形の核に深々と突き刺さったままの状態になっている。
引き抜こうと思えば引き抜けたのかもしれないが、大泥人形は俺をぶん殴ってやろうとしている状態のままで、拳を構えたまま健在で……ここからの追撃のためにあえて引き抜かずに、大泥人形の様子を見やり続ける。
するとゆっくりとだが確実に大泥人形を構築していた泥が、砂となって崩れ始めて……崩れた砂がきらきらと輝きながら溶けるようにして消滅していく。
「お、おお……今度こそやったようだな」
改めて俺がそう言うとポチ達は、疲れてしまったのかぐったりと俺の背中に体を預けてきて……俺もまた黒刀を鞘に納めながらぐったりと肩を落とす。
厄介な敵だった、疲れる相手だった。
その上最後の最後で訳の分からねぇ現象が起きちまって、まったく心臓に悪いやら肝が冷えるやら。
肩を落としながら荒く息を吐きだし、そのまま体を休めていると……ボグが駆け寄ってきて、そしてその大きな手で俺の両肩をぐっと掴み、そのまま俺を後方へとものすごい勢いで引っ張りやがる。
「な、何を!?」
と、俺がそう声を上げた時だった、それまで大泥人形がいた場所に……俺が肩を落として居た場所に、ごろごろと石が降ってくる。
「あ、ドロップアイテムか……」
なんて呑気な声を上げちまうが、ボグがそうしてくれなかったらその石の雨を……あっという間に小山が出来上がる程の雨を全身に浴びちまってた訳で、ボグに助けられたことをそこでようやく察した俺は、背後へと視線をやりながら「ありがとうよ」と声をかける。
するとボグはにっこりとした笑みを返してくれて……そんな中、ボグの背中から脱出したペルが、まだまだ降ってきている石のうちの、こちらに転がってきた一つの元へと駆け寄り、それを拾い上げる。
「なんだぁ、この石?
泥人形より量は多いみたいだが……大泥人形のミスリルより貴重って感じは全然しないぜ?
なんかこう、石の中に閉じ込められた水晶っぽいっていうかガラスっぽいっものていうか……でもそれだけで、ガラス交じりの石なんかをドロップアイテムにするなんて、大泥人形はケチくせぇ魔物なんだなぁ」
その言葉を受けて俺とボグと、ペルのように背中から脱出したポチ、シャロン、クロコマもまた、適当な石を拾い上げては、その石のことをじぃっと見やり……そうしてから俺以外の全員が首を傾げる。
俺以外の全員にこれが何であるかの心当たりはねぇようで……ただ一人だけ『もしかしたら』という、思い当たることがあった俺は、適当な大きさの石を拾い上げて、黒刀の鞘を引き抜き……鞘でもってその石をごちんと叩いてみる。
すると石の部分が砕けて、中に埋まっていたらしいガラスのような部分が顕となって……もう二、三度鞘で叩いてみた俺は……それによって砕けたガラスのような部分の表面をじぃっと見やって、持ち上げてその部分に光を通してみて……その部分を見つめながらゆっくりと口を開く。
「これに関しちゃぁ全然詳しくねぇっつうか、しっかり鑑定するにはネイに見てもらう必要があるんだろうが……多分こりゃぁあれだな、金剛石だな。
大陸の方でよく掘り出される宝石だとかで……上手く削ってやりゃぁ結構な輝き方をするらしい。
つっても今やってみた通りに叩けば砕けちまう程に脆いもんだから、黒船作りには役に立たねぇだろうなぁ。
以前ネイの店で首飾りにしたのを見たことがあるんだが……正直俺にはガラスを磨いたもんなんだか、水晶を磨いたもんなんだか、見分けはつかなかったな」
そんな俺の言葉を受けてポチ達とボグ達は、なんとも残念そうな顔で、骨折り損のくたびれ儲けかと、大きなため息を吐き出すのだった。
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