第130話 開戦 対大泥人形!
作戦が決まり、あとは実行するだけとなって……そして今回からダンジョン探索に、エルダー達がついてきてくれることになった。
戦闘に参加したりはしねぇで、俺達の後を十分に距離をとった上で追いかけてくるという形で……そうやって戦闘の様子を参考にしたり、ドロップアイテムを回収したり、あるいは飯やらの補給品を渡してくれたりとするつもりらしい。
一度踏破したダンジョンをそんな風に、勉強がてらについてくることはあったが、攻略の段階から参加するというのは初のことで……危険がねぇとは言い切れねぇ行為になるが、エルダー達も俺達がダンジョン探索をしたり食い道楽をしたりしている間にダンジョンに潜り続けていた訳で……多少の危険くらいはなんとか出来るとの、自信があってのことのようだ。
欠点としてはエルダー達にも報酬の分け前をやらなきゃならず、取り分が減るということだったが、そういった形でエルダーの助けが得られるとなれば、その分だけ荷物を減らせるし、ドロップアイテムのことを気にしなくて良いしで道中の疲労感はぐっと減ることになり……多少取り分が減るくらいは全く問題ねぇだろう。
そう言う訳で実際にダンジョンに潜ってみた所、するすると奥へと進むことが出来て、前回の半分も疲れていねぇ状態で最奥まで行く事ができて……そして扉の前で俺とボグは、ポチ達を背負うための準備を始めた。
俺が背負うのはポチとシャロン。
ポチとは連携が取りやすく、シャロンが支援できるのは俺のパッシブ魔法なので、当然の組み合わせということになる。
ボグが背負うのはペルとクロコマ。
ペルトの連携が取りやすく……そして余りのクロコマという組み合わせだ。
「いやまぁ、理屈は分かるし納得はしとるんだがのう、あまりもん扱いはあんまりではないかのう?」
なんてクロコマの抗議の声を聞き流して作業を進めて……具足氏の牧田が特別頑丈に仕上げてくれた、おんぶ紐でもってポチ達をしっかりと縛り付ける。
縛り付けたなら立ち上がり、子供をそうするように揺らしてやって位置を調整してやって……そうしたなら、刀は抜かずに扉の前に堂々と立つ。
今回俺とボグの仕事は、大泥人形のあの突進を回避することにある。
中途半端に攻撃しても無意味で、無意味だってんなら最初からしないほうがマシで……とにかく回避に徹し、扉の向こうを駆け回って、攻撃は背中のポチ達に任せる形だ。
ポチの小刀とペルの魔法の矢と……それとまた何か改良したらしいクロコマの符術と。
それらを主な攻撃手段として、あの馬鹿でかい泥人形の中の核を砕いていくって訳だ。
「それじゃぁまぁ……行くとするか」
そう声を上げて俺が扉に触れると、ふんすふんすと鼻息を荒くしたボグが力いっぱいに頷き、背中のペルとクロコマの頭が良い感じに振り回される。
「おいこら、ボグ! オイラ達がいることを忘れるんじゃないぞ!!」
「なんだか、あっという間に頭が回ってしまいそうだのう」
そうして二人からそんな悲鳴が上がり、ボグが頭をばりばりと掻いていると……そんな俺達の様子を見守っていた、エルダー達からも声が上がってくる。
「戦いが始まったら扉の隙間から観戦させてもらうよ」
「頑張ってこいよ、この人数だともっともっとドロップアイテムがねぇと旨味がねぇからなぁ」
「なぁに、ダメだったらダメだったで逃げてくりゃぁいい、何なら儂らの秘密兵器で援護してやっても良いんだぞ」
なんてことを口々に言ってくる……ドロップアイテムの山を乗せた荷車に寄りかかるエルダー達に、苦笑を送り返した俺は……ゆっくりと扉を開け放ち、ボグと共に扉の向こうへと足を進めていく。
すると部屋の最奥で……洞窟の奥で座っていた……というべきか。
とろけて泥の塊となっていた泥人形がゆっくりと立ち上がり……手足を作り上げていく。
「出来上がりを待ってやる必要はねぇ! やっちまえ!」
いつでも駆け出せるように構えながら俺がそう言うと、ポチが小刀を……流石に踏ん張りが利かねぇのか、おぼつかねぇ仕草で振り回し始め……ペルは随分と余裕のある態度で魔法の矢をどんどんと放っていく。
そうやってポチ達が攻撃を繰り出す中、シャロンは俺の体内に魔力を送り込み始めて……クロコマは魔力を込めた符を、洞窟の中のあちこちへと投げつけ始める。
投げつけられた符は、壁なり床なりに触れた瞬間ぺたりとはりつき……そのまま符術を発動させるでもなく、微動だにしなくなる。
「なぁに、あれは仕掛けよ仕掛け。
あれに敵さんが触れれば仕掛けがほいと発動するって訳だのう。
ちなみに狼月達が触れても全く問題ないからのう、気にせず駆け回ると良いのう」
なんてことを言いながらクロコマが符をばんばんと投げつけていって……そうしてようやく形を成した大泥人形が、ゆっくりと……その大きさと重さを感じさせる動きでもってこちらに向かってくる。
「来た来た、来やがったぞ!!
ボグ! とにかく逃げることに徹して、下手な手出しはするんじゃねぇぞ!」
そう声を張り上げてから俺はぐっと足に力を込めていつでも駆け出せるようにと構えて……ボグもまた同じように構えて、大泥人形のことをその両目でもって鋭く睨む。
そうして加速し始めた大泥人形がこちらへと、凄まじい速度で迫ってくる……となったその瞬間。
大泥人形の足が、クロコマがばらまいた符を踏みつけて、踏まれた符が魔力の槍を作り出し、大泥人形の足のことを凄まじい勢いでもって貫く。
「よっしゃよっしゃ! どうだ! これぞ新作符術! ミスリル魔法符の威力よ!!」
直後にクロコマからそんな歓声が上がり……足を貫かれた大泥人形が、少しだけその勢いを失い、姿勢を崩す。
そんな大泥人形をしっかりと見やりながら俺が、
「み、ミスリル魔法府だって?
まさかクロコマおめぇ……貴重なミスリルを符術にしちまったのか!?」
と、声を上げるとクロコマは「ふふん」とそう言ってからなんとも得意げな様子で言葉を返してくる。
「流石のワシも、貴重なミスリルを無駄にする程馬鹿じゃぁないわい。
ミスリルはミスリルでも、今回の符術に使ったのは削りカスやら、精錬の際に出たゴミッカスやらの、不用品ばかりよ。
ちゃぁんと上様と、ミスリル研究にご執心の深森殿にも許可は取ってあるから安心せい」
そんなクロコマの言葉に俺が「そうかよ」と返していると、大泥人形は再度加速してきて……俺達の目の前まで迫ってきて、そうして俺とボグはほぼ同時に、それを避けるべく脱兎かのように、全力でもって駆け出すのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます