第129話 対大泥人形作戦会議


 あれから何度か扉を開けて中の様子を確認し、相手が加速しきる前の安全な範囲で扉の向こうへと入ってみたり、軽く攻撃してみたりもして、そうやって情報を収集した結果……化け物、大泥人形の動きの大体の所を掴むことができた。


 侵入者があれば即それに反応して加速しながら猛烈な勢いで突っ込んでくる。

 それが回避されたならまたすぐさまに突っ込んできて……とにかく体当たりでもってこちらを潰そうとしてくる。


 その体当たりをどうにかしようと足を攻撃して転ばせても、大泥人形は全く頓着しねぇ。

 転んで上下逆さまになっちまっても腕を脚にし、足を腕にして、その泥の体を柔軟に変形させて再度体当たりをしてくるだけだ。


 壁などにぶつかった場合などでも同様で、わざわざ反転したり姿勢を立て直したりせずに、前後の区別がねぇのかそのままの状態で駆け出しやがって、ただがむしゃらに体当たりを繰り出してくる。


 恐らくだが手足をなんらかの方法で切断したとしても、またすぐに新しい手足を作り出してこちらに体当たりをしてくるに違いねぇ。


 目がねぇ顔もねぇ頭もねぇという雑な作りで、とにかく体当たりすることしか考えておらず……ただ体当たりのためだけに作られた魔物と言っても過言じゃねぇだろう。


 そして厄介なのが核の位置で……表面近くにある核はまだ良いのだが、体の中央というか、人間で言うところの五臓六腑のある辺りにある核がなんとも厄介で……相手が大きすぎるためか刀での斬撃では刃が届かず、傷一つ負わせることが出来ねぇ。


 刺突ならばあるいは、という感じなのだが、泥の塊にそこまで深々と刺突してしまったなら、刀が抜けなくなっちまうというか絡め取られちまう危険性があり、あまり良い方法とは言えねぇだろう。


 ボグの爪も同様で……体内に溜め込んだ全魔力でもって爪を最大限まで強化しても、どうにもならねぇという有様だ。


 そんな大泥人形の五臓六腑核に攻撃が可能なのはポチの魔力での斬撃と、ペルの魔法の矢しかねぇようで……そうした情報を得ることに成功した俺達は、とにかく作戦を練るとこから始めねぇと話にならねぇようだと逃げ帰り……その日はそのまま解散とし、体を休めることにしたのだった。



 そういう訳で翌日、俺達は組合屋敷の宴会場に集まり……ボグ達が食べてぇと言い出した寿司を山程買ってきた上での作戦会議を始めていた。


「やっぱり銃じゃないですかねー、銃なら貫通力ありますし、銃を並べて一斉射って感じでどうです?」


 なんてことをポチが言うと……ボグは自分の大きな爪のある手を見て、ペルは小さすぎる手を見て、その首を左右にぶんぶんと振る。


「人手をやとって一斉射っていうならありですけど……実戦慣れしてない人をあそこに連れて行ったら、多分……最初の体当たりで潰されちゃいますよね」


 そうシャロンが返すとポチはうーんと唸り……俺の方をちらりと見てくる。


 それを受けてあれこれと考えていた俺は……考え事は考え事で続けたまま上の空とまではいかないものの、ぼんやりとした答えを返す。


「上様に頼んで最新式のをまた借りて俺が持つってのはありだろうが……それだけで勝てる相手じゃねぇだろうな。

 ……それに銃はどうしてもしっかりと構えて狙いをつけなきゃならねぇから、あの体当たりを回避するために動き回りながらってなると……核の位置を見破った上で狙い撃つってぇのは難しいだろうな」


「んんん……そうすると、そうすると……僕とペルさんが中心になって戦って、クロコマさんの符術であの体当たりをどうにかするって感じなんですかねぇ」


 俺に続く形でポチがそう言うと、作戦会議だってのに寿司を食うことにばかり注力していたクロコマが、慌てて胸をどんどんと叩き茶を飲み……喉につまりかかった寿司を押し流してから声をあげてくる。


「わ、ワシか!?

 ……ワシの符術にそこまで期待されても困ってしまうのう。

 弾力の符術は確かに協力だが、あの質量のあの衝撃を弾けるかというと……微妙なところだろうのう。

 壁にぶち当たったりした瞬間に符術で押し込んで、動きが鈍いうちに拘束するってならできんこともないだろうが……それもワシの魔力が尽きればそれでしまいだからのう」


「ううん、そうなると困っちゃいますね。

 ……あの大泥人形の体当たり、一回二回なら避けられると思うんですけど、僕もペルさんも小柄で、一歩一歩が小さくて体力がないですから、いつまでも駆け回って回避し続けるっていうのは難しいと思うんですよ。

 その上で攻撃もしなきゃいけないとなると……あれだけの数の核を潰し切るっていうのは難しいですねぇ」


 クロコマの言葉を受けてポチがそう返し……それきり誰も声を上げなくなり、宴会場を沈黙が包み込む。


 そんな中でボグとクロコマは考えることを放棄して寿司を食うことに集中し始め……そんなボグ達に呆れながらも、一旦頭の中を空っぽにするため……一から考え直すためにと、ポチ、シャロン、ペルも寿司に手を伸ばし、好きな具を次から次へと口の中に放り込み始める。


 そうしてもぐもぐと寿司を食べる音と、茶をすする音が響き渡ることになった宴会場で俺は、あぐらをかきながら腕を組みながら考え続け……これしかないだろうなとため息を吐き出し、寿司を食う皆を見やりながら声を上げる。


「あー……一つ思いついた手がある。

 かなり不格好というか、人には見せられねぇ有様にはなるが……これならまぁ、それなりにやつとも戦えるだろう」


 俺のそんな言葉を受けてポチ達は、こちらをじぃっと見やりながらも口を思いっきりに膨らませながら寿司を食い続けて……そんなアホ面を見やりながら俺は言葉を続ける。


「俺とボグでポチやペル達を背負って、俺とボグが駆け回ってあの体当たりを回避してるい間に、ポチ達が攻撃をしまくるって手だ。

 普段背負っている荷物を思えば、ポチやペルくらいの体重なら問題にもならねぇだろうし……俺とボグの体格、体力ならかなりの時間駆け回る事ができるだろう。

 ポチとペルも回避を気にしねぇでいいならどんどか攻撃できるんだろうし、シャロンもクロコマも俺達の背中から支援魔法なり符術を使ってくれりゃぁ良いんだし……悪くはねぇはずだ」


 そう言って一旦言葉を区切ると、ポチもボグもペルもシャロンもクロコマも「ふぅむ」なんてことを言いながら、悪くねぇと思っているのだろう、特に反論はしてこない。


 そうやって駆け回ってみて駄目そうならそのまま逃げて仕切り直しって手も使えるんだし……俺とボグが残りの体力を見誤らなければ問題はねぇはずだ……見栄え以外は。


「問題はまぁ……しっかりと安定した状態で攻撃しやすいようにって、お前達をおんぶ紐辺りで縛り付けなきゃいけねぇってことくらいかな。

 あの体当たりを回避する関係上、急な方向転換や体制を崩すくらいは何度も何度もすることになるだろうし、ただ背負った状態ってのは問題があるだろう。

 お前達もそんな不安定な状態じゃ攻撃する余裕もねぇだろうしなぁ……幼子みたいな扱いになるが、まぁ、今回ばかりは仕方ねぇと思って我慢してくれや」


 ポチ達をおんぶして、しっかりとおんぶ紐で縛り付けて、そんな格好で駆け回る子守砲台が俺とボグの役目で……幼子のように背負われ子守されるのがポチ達の役目で。


 普段であればそんな扱い……コボルト差別とも取れる扱いは断固としてごめんだと声を上げるポチ達だったが、今回ばかりはそうするのも仕方ねぇという思いがあるのだろう、何も言わずに不承不承といった様子で頷いて……そうしてからやけ食いのつもりなのか寿司をぱくぱくと、物凄い勢いで食べ始める。


 ぱくぱくぱくぱくと、体に見合わねぇ速さで見合わねぇ量を食ったポチ達は……その腹を大きく膨らせてから、どたんと後ろに倒れ込んで大の字になり……幼子扱いを受けなきゃいけねぇという悔しさを晴らすかのように自らの腹をぽんぽんと叩き、撫で回し始めるのだった。

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