第127話 ダンジョンの中を往復して
ボグとペルの加勢もあって、泥人形の群れを無事に……十分な体力を残した状態で討伐出来た俺達は、まずは周囲に散らばったドロップアイテムをかき集めて……それらを背負い鞄に一つ一つしまいながらの休憩を取ることになった。
「……群れの厄介な所は、倒した後のドロップアイテムの量にもあるかもしれねぇなぁ。
三十体が落としたミスリル鉱石が三十個……これらを持ち歩くだけでも結構な負荷になるからなぁ」
鞄を地面に下ろしてから腰を下ろし、ドロップアイテム用の布に包んで丁寧に鞄の奥へとしまい……と、そんな作業を進めながら俺がぼやくと、ポチ達がうんうんと頷き同意をしてくれる。
一つ一つがそれなりに大きく、重く。
鞄に入れるにしても限界があり、限界まで入れようもんならその重さはとんでもねぇことになっちまう。
まだまだ奥に進んでいる道があり、その先には恐らく親玉が待っている訳で……これらの多すぎるドロップアイテムの存在はなんとも厄介だ。
だからと言って貴重なミスリル鉱石を捨てていくという訳にもいかねぇし……もう必要ねぇとのお声がかかるまではしっかりと持ち帰らなきゃいけねぇ訳で……全くどうしたもんかねぇ。
「それならまぁ、一回帰るしかないんじゃないかい?
吐き出されに任せるか、入り口まで帰ってミスリル鉱石を職員に渡して……もう一度ここまでやってくる。
行き来で結構な距離を歩くことになるけど、それ以外に道はなさそうだね」
ぼやきながら作業を進めていた俺達にペルがそう声をかけてきて……俺達はまぁ、そうなるよなぁと頷きながら立ち上がり……限界までミスリル鉱石が詰め込まれた背負鞄をひぃひぃ言いながらしっかりと背負う。
「まぁ、そうだよなぁ……どう考えてもそれしかねぇ訳だし仕方ねぇ。
ただ吐き出されで貴重なミスリル鉱石を失ったとかは洒落にならねぇから……一旦入り口まで戻るとしようか。
それからまたここまでやってきて……体力に余裕がありそうなら更に奥に進んで、ちょっとでも限界を感じたら引き返す。
そんなのを何回か繰り返してみても最奥に到達できねぇようなら……その時は何か対策を考えなきゃいけねぇだろうなぁ」
なんてことを言いながら足を踏み出し、来た道を戻り始めると……そんな俺達の後に続く、両手いっぱいに鉱石を抱えて、肩にペルを乗せたボグが言葉をかけてくる。
「なんだかこの仕事、石炭掘りみてぇだなぁ。
奥へ進んで鉱石掘って、それを表へと持って帰ってくる……石炭も中々重いもんだから、皆が苦労してたのを思い出したよぉ。
……石炭と同じだってなら、あれだぁ、線路を敷いたりはできねぇのかな?
線路敷いてさ、貨車走らせてさぁ、あれで鉱石運んだら楽ちんだよぉ。
……なんだっけ、ドワーフの人がトロッコって言ってたっけか?」
そんなボグの言葉に俺は、足を前へ前へと進めながら首を左右に振ってから言葉を返す。
「それはまぁ、難しいだろうなぁ。
ダンジョンはそこに入り込んだ人間だけじゃなくて、持ち込んだものも吐き出すそうだから……線路を敷けたとしても、俺達がダンジョンを出ちまった時点で一緒に吐き出されちまうんじゃねぇかな。
そもそもなんだ……杭とかを打てねぇダンジョンに線路が敷けるのかって問題もあるしな。
問題なく敷けたとしても吐き出されなかったとしても、そこらの雑魚は一日経つと復活する訳で、そいつらに壊されるんじゃねぇかって問題が出てきちまうしなぁ」
「そうかぁ……線路は無理かぁ。
んなら貨車を線路なしで使うとか、大八車とかはどうだぁ? ダンジョンって床が平らで、つまづくような石とかもねぇから、線路がなくても結構いけんじゃねぇかと思うんだよなぁ。
貨車とか大八車とかを持ち込んで、それを皆で引っ張ってけば……こうして運ぶより楽になるはずだよぉ」
そんなボグの言葉を受けて俺はハッとした顔になり……続けてポチ達も似たような顔になる。
貨車とかいうのはよく分からないが……大八車は確かに悪くないかもしれねぇ。
最近普及しつつある荷馬車なんかをそのまま持ってきても良い訳で……鉄材やら何やらの重い荷物を運べる荷車辺りを借りたなら……うん、結構な楽が出来るかもしれねぇな。
「……ボグの案は試してみる価値はあるかもな。
……そうなっちまうともう本当に魔物を狩りに来ているというよりは鉱石を掘り出しに来ている感覚になるが……黒船が出来上がって量産されて、シャクシャインとの行き来を楽にするって目的を達成するためには、それも悪くねぇかもしれねぇな」
えっちらおっちらと重い背負鞄を揺らしながら俺がそう言うと……足早に進み出て、俺の隣へとやってきたボグが、にんまりとした笑顔をこちらに向けてくる。
「オラ、重い荷車とかをひくのは大得意だから、任せておくれよぉ。
たくさん倒してたくさん運んで、船が出来るように頑張るからよぉ。
そしたら兄弟も皆も、シャクシャインまで来てくれるんだろう? ならオラ、どんなに重い荷物が相手でも張り切っちまうよぉ!」
笑顔のままそんなことを言ってくるボグに俺が「ありがとうよ」と感謝の言葉を返すと、ポチ達がそれに続いて……ボグの肩の上でペルがやれやれといった顔をする中、ボグは満面の笑みとなって、その大きな口をぐわりと開けての笑顔を作り出す。
大きく力強く、立派な歯というか牙があって……いやはやまったく、口の中まで熊そっくりなんだなぁ。
……と、そんなことをしているうちにダンジョンの出入り口となる裂け目が見えてきて、一旦それに触れてダンジョンから出た俺達は……そこで待ってくれていた職員に事情を話してからミスリル鉱石をそこらに積み上げていって……ちょっとした小山を作り出す。
その小山の処理は職員に任せることにして……別の職員が持ってきてくれた冷やし甘茶をごくりと飲んだ俺達は、礼を言いながらまたあの裂け目に触れて……本日二度目の、奥へと向かっての道を進んでいく。
ダンジョンのモンスターは一度倒しちまえば翌日になるまでは再出現することはない。
一体どういう理屈でそうなっているのかは分からないが、とにかくそういうことになっていて……そういう訳で俺達は特に問題なく、泥人形の群れの大部屋へとたどり着く。
先程の戦闘とここまでの行き来とでそれなりの体力を消費しちまっていて、そういう面での問題はあったが、それでもまだまだ奥に進めるし、また三十とかの群れでなければ泥人形と戦うことも出来るだろう。
最奥まであといくつの部屋があるのかは分からねぇが、そこら辺のことをはっきりさせるためにも前に進むことは必要で……そういう訳で俺達は、それぞれの武器を構えながら前へと……ダンジョンの奥へと進んでいくのだった。
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