第126話 再戦 泥人形の群れ


 通路のような、見えない壁で囲われている空間を進み……大きく開けた部屋のような、以前来た時に俺達が泥人形とやり合った空間へと到着し。


 そうして気配のようなものを感じ取ったらしいボグが一歩前に出て構えを取り……続いてペルもその後方で構えを取り……そうして一体目の泥人形が地面から這い出てくるかのようにして形を成す。


「がぁぁぁぁ!」


 瞬間、ボグの雄叫びが響く。

 それは普段温和なボグからは想像もできない程に大きく、雄々しく空気を震わせるもので、直後に魔力の込められたボグの手が……大きく鋭い爪を構えがボグの手が泥人形目掛けて振り下ろされる。


 その速さは凄まじく、重さは強烈で、回避も防御も出来ぬ間に泥人形はその一撃を受けることになり……核を切り裂かれてしまったのだろう、形を保てなくなって崩れて土となって消滅していく。


 俺の黒刀を受け止めやがった粉粒体現象とやらは何処へ行ってしまったのか……ボグ程の一撃ならばそれすらも切り裂けるということなのだろうか。


「せいっ」


 先へと進んでいって、二体目の泥人形が現れた所で響いたのはペルのそんな声だった。


 人差し指と親指だけを立てて手を握り……その人差し指を新たに生まれた泥人形へと向けて、そんな声を上げたのと同時に人差し指から魔力が……魔力でもって練り上げられた鋭く細い一本の矢が放たれて……泥人形の胸の辺りをあっさりと貫く。


 そしてその一撃もまた核を貫いていたようで……泥人形が崩れ去って消滅していく。


 いやはやまったくこうもあっさりと倒しちまうとはなぁと、驚きながら俺達は足を進めて……第四ダンジョンの探索を進めていく。


 前回ダンジョンに潜った時は、分かれ道を右へ右へと曲がっていったので、今回は左へ左へと曲がってみているのだが、全ての曲がり角において左は、外れというかなんというか行き止まりとなっていて……その行き止まりにただ泥人形が待ち構えているだけの空間となっていて、結果俺達はたまたま正解を選び取っていたらしい前回と同じ道を通ることとなり……そうして前回の探索で帰還を決断することになった、泥人形の群れが出現した空間へと向かって足を進めていく。


「兄弟、さっきの戦闘中、泥人形の核の位置を掴んでいたかい?」


 後少しでその空間、というところで、ボグと一緒に俺達の前方を歩いていたペルがそう声を上げてくる。


「いや、一瞬で戦闘が終わっちまったからな、それどころじゃなかったって感じだな」


 俺がそう返すとペルは、まるで退屈を持て余しているとばかりに両手をぐいと振り上げて、上体をふらふらと揺らしながら言葉を返してくる。


「んー、やっぱそうか。

 じゃぁまぁ、この先の群れが出てくるって部屋の泥人形をオイラ達がやっつけてる間にさ、しっかり核の位置を探っておいてよ、これもまた修行だと思ってさ」


 その言葉を受けて俺は、随分と余裕があるんだなぁとそんなことを思うが……俺達が散々苦戦していた泥人形をああもあっさりと倒してみせたんだ、余裕があるのも当然のことで、俺はただ一言「おう」と、そう返す。


 ポチ達もまた俺と同じ思いなのだろう、異論を口にすることなくただ静かに頷いていて……そうしてボグとペルが先頭になる形での空間へと足を踏み入れ……それを待ち構えていたかのように、部屋のあちこちから泥人形達が次々と生まれ出て、形を成していく。


「がぁぁぁぁぁ!!」


「せいっ!!」


 それを受けてボグとペルがそう声を上げて、それぞれの一撃を放っていく。


 その全てが核を貫いていて、泥人形はまともに動くことすら出来ずに、次々と倒されていく。


「いやはや全く、これじゃぁ俺達の出番はねぇなぁ」


「……本当に、凄まじいの一言ですねぇ」


 そんなボグとペルの背後……邪魔にならねぇようにと部屋の入口付近で待機していた俺がそう声を上げると、ポチがそんな言葉を返してきて、そんな俺達が見守る中、ボグとペルは次々と泥人形を倒していく……のだが、10体程の泥人形を倒した所で、二人の動きが傍目に分かる程に鈍り始める。


 体力切れか魔力切れか。


 その鈍り方は尋常ではなく、慌てて武器を構えた俺達は、二人に加勢しようと進み出て……そうして俺が代表する形で戦闘中の二人に声をかける。


「ボグ、ペル! 二人だけで無理をする必要はねぇんだ、息が切れたなら下がって休んでくれ」


 突然前に出て二人を邪魔してしまわないようにとかけたその声は戦闘中の二人にしっかり伝わったようで、二人は俺達に分かるように大きく頷き……そうしてから俺達と入れ替わるような形で、後ろに下がっていく。


 しかし意外というかなんというか、あんなにもでっかい体だってのに、こんなにもあっさりと息が切れちまうもんなんだなぁ。


 ……いや、逆か? 体がでかいからこそ体力の消費も激しいのか?


 でっかい体で力も凄まじくて、その分消費が激しくて。


 ペルは逆に体が小さすぎるせいで、回避やら何やらでそこらを駆け回る必要があって、その分だけ消費が激しくて……。


 強すぎる程に強く、泥人形程度の相手なら向かう所敵なしって感じだったんだが……そうか、そんな二人にも欠点があったって訳か。


 なんてことを考えながら前に出た俺達は、それぞれの獲物を振るいながら以前のように泥人形達とやりあっていく。


 以前と違うのは、そこに魔力を込めたり魔力を感じ取ったりという、魔力関連の作業というか、手順が追加されていることで……それによっていくらかの隙が出来てしまっているのだが、それ以上に敵の弱点をしっかりと見抜けるのが大きく、戦いは俺達の有利な形で進んでいくことになる。


 ただがむしゃらに、無駄な攻撃を繰り返していた以前とは違う。

 ふんわりと、はっきりとしないこともあるが相手の弱点の位置を……大体の位置を見抜けることが出来て、その辺りに攻撃を集中させていれば、相手を倒せるという安心感も背を押してくれていて。


 更に以前の戦いでの経験というか、泥人形がどういう動きをしてくるのか、どういう攻撃を繰り出してくるのかという情報が、しっかりと頭と体の中に蓄積されていて……以前の苦戦が嘘かのうように、次々と泥人形達を倒していくことが出来る。


 更に更に俺達には魔法の力も宿っていた。


 俺とポチはパッシブ魔法で身体能力を強化していて、クロコマはボグとペルから教わった魔力の知識によって符術の効果を一段を押し上げることに成功している。


 そしてシャロンは独自の魔法を……ボグとペルから教わった魔力の知識から生み出した魔法を使いこなしていて、俺達の戦いを支援してくれる。


 俺達に魔力を分け与えて俺達のパッシブ魔法を強化してくれる魔法。

 逆に相手の魔力を乱して、その動きを鈍らせる魔法。


 更に投擲する礫に魔力を込めたりなんかもして……そうして俺達は以前よりも早く、圧倒的に早く、この部屋に出現する30体の泥人形を殲滅するのだった。

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