第125話 久しぶりの第四ダンジョン


 ボグとペルと一緒にダンジョンに潜るとなって、まずやるべきことは二人の防具を用意することだった。


 二人ともそれなりの戦闘経験があるらしく、防具なんか無くても構わねぇってな具合に自信を見せていたが、自分達がしっかりと防具を用意しているのにボグ達だけ……なんてことをする訳にもいかず、ましてやボグ達は他国の要人だ。


 ダンジョンに連れていくってだけでも江戸城の職員が嫌な顔をしていたっていうのに、その上防具なしで怪我をさせちまったなんてことになったら、どれだけの嫌味を言われることになるやら。


 そういう訳でまずは二人を具足師の牧田の下につれていき、二人のための防具を拵えてもらうことになった。


 俺としては俺達が使っているのと同じような、ダンジョン産の素材を使った防具を用意してやるつもりだったのだが、ボグ達はそんなものよりもアレが欲しいと牧田の工房になったあるものを指差し……有り合わせのものをいくつか使って良いなら、思っていたよりも早く用意出来るということもあり、二人分のソレを用意することになった。


「ん~~~、この独特の意匠! いかにもお江戸って感じでオラ好きだなぁ」


「オイラもこれ嫌いじゃないよ……っていうかオイラの体の合う大きさなんてあるの?

 え? 人形用のやつ? ま、まぁ、ちゃんと着れるならそれでも良いけどさぁ」


 ボグとペルがそんな感想を口にしたソレとはつまり、昔ながらの甲冑……当世具足のことであり……特に戦国の世に使われていたようなものが二人のお気に入りであるようだ。


 ボグには大男用のものを、ペルには人形用のものを。

 それでも大きさが合わない部分があるので、そこは牧田達が手を入れることで調整して……そこまでの時間はないのである程度、簡単な作りにもしてもらって。


 ボグはそもそもその体を覆っている体毛がそれなりの防具と同等の防御力を持っているらしく、ペルは敵と打ち合うだとか、殴り合うだとか、そもそも防具を必要とするような場面に立つつもりがなく……防具が無くてもそこまでの問題はねぇらしい。


 そういう訳で二人の防具は実用性よりも見栄えを重視したものとなっていて……そんな風に見栄えの立派な防具を身につけていれば、江戸城の職員も文句を言ってこねぇはずだ。


 細かい部分の調整や、人間ではない二人の体に合わせるための改良に二日程が必要となって……そうして三日後。


 完成した当世具足を身につけたボグとペルは、鼻息荒く堂々と……牧田の工房から江戸城までの大通りを真っ直ぐに進んでいた。


 大柄な熊が立派な前立のある兜を被って面頬までして、がちゃりがちゃりと音を立てながら胴を揺らしていて。


 そんな大男のすぐ横に、小柄なコボルトよりも小さな……人形のような男がまるで草原を駆ける馬の如く軽快に駆けていて。


 我を見よとばかりに堂々と歩く二人には、江戸の人々の視線が向けられていて……大きな熊に当世具足という、思っていたよりも似合う組み合わせというか、見栄えの良い組み合わせを見て人々はやんややんやと囃し立てたり、手を叩いたりとしている。


 立派な姿を見せるボグだけでなく、具足を苦にもせずに軽快に、素早く大通りを駆け回るペルにもその声と拍手は向けられていて……仕立てたばかりの具足をそんな風に褒められた二人はなんともご機嫌で……ご機嫌がゆえにその鼻息はどんどんと荒くなっていく。


 そんな二人の後を追いかける形となった俺達は、なんとも言えない恥ずかしさを味わうことになったが……まぁ、ボグ達があんな風に喜んでくれているなら、これも悪くないかと、そんな風に開きなおって……まるで大道芸人かというような気分で足を進めていく。


 俺達は俺達でダンジョンに向かうつもりで支度を整えていて、一応は普通の着物に見えなくもねぇ格好ではあるのだが……それでもまぁ、篭手やら何やら普通の着物らしからぬ部分がそこかしこにあり……瓦版などでダンジョンのことを知っている大江戸の人々はやれ「がんばってこいよ!」「大物を狩ってこいよ!」「もっともっと景気を良くしてくれよ!」なんて好き勝手な言葉を俺達に投げかけてくる。


 ……いやはやまったく、防具の受け渡しは江戸城ですべきだったかなぁと、そんなことを考えながら足を進めていって……江戸城の職員達に驚かれながら江戸城へと入城し、第四ダンジョンのある二階へと足を進めていく。


 他国の要人云々の理由で俺達に嫌な顔を向けていた職員も、まさかの当世具足を用意されたとなったらただ驚くしかないようで……唖然とする職員達を後に足を進めていった俺達は、ダンジョンの見張りをしてくれている職員へと声をかけて、錠前を外してもらう。


「もう一度だけ確認するが、具足の慣らしとかは必要ねぇんだな? 問題なく動けるんだな?

 何なら道場で一日、具足の立ち回りを教えても良いんだぞ?」


 錠前を外してもらい、後は部屋の中に入って裂け目に触れるだけとなって、俺がそんな最終確認をすると、ボグもペルも笑顔をこちらに向けてくる。


「兄弟、大丈夫だよぉ、こんなに薄くて軽い防具なら、あってもなくても同じように動けるから、問題ないよぉ」


「オイラも全く問題ないぜ、ここまでの道中でどう扱えば良いのかは十分に理解できたからな。

 あんな風に駆け回れるなら全く問題はないよ」


 ボグ、ペルの順でそう言ってきて……なら良いと頷いた俺がお先にどうぞと手で示すと、ボグとペルは笑顔を弾けさせ、高鳴る胸を抑えられないといった様子で裂け目に手を伸ばす。


 それに続く形で俺達も……俺、ポチ、シャロン、クロコマも手を伸ばし……久しぶりのダンジョンへと足を踏み入れる。


 荒野のダンジョン、赤土が支配し舞い飛ぶ空間……岩と土の塔が立ち並ぶ世界。

 

 そんな世界に初めて足を踏み入れることになったボグとペルは、ぽかんと口を開けながら周囲を見渡して……そうしてから魔力を練り始めて、戦闘のための準備を整えていく。


 観光気分はここまで、これからは命のやり取りをする世界だということは、わざわざ言うまでもないことのようで……魔力を練り上げた二人の表情は真剣そのもの、油断の「ゆ」の字もねぇといったような出来上がりとなっている。


 それにならって俺達も魔力を練るなり装備を構えるなりして……そうして俺達はボグとペルを先頭に、ダンジョンの中を進んでいくのだった。

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