第106話 新装備と第四ダンジョン
それから数日、ポチ達と道場での鍛錬をする日々を送って……牧田から装備が完成したとの連絡が来て俺達は牧田の工房へと足を向けた。
すると牧田達は、俺達四人分の装備の入っているらしいつづらを用意して待っていてくれて……俺達はそれぞれ、自分たちの名前の書かれた紙の張られたつづらの前に立って、新たな装備を確認し……男連中はその場で、シャロンは奥の部屋で身に纏い、具合を確かめてみる。
まず俺の装備は作りとしては極単純な代物だった。
白い布地に炎の柄といった意匠の上着に袴と……上着の袖と袴の裾をしっかりと固定する目的での篭手と履物。
普通篭手には鉄板やらをつける訳だが、今回の代物は布だけで作られたもので……例の金属の糸とやらで編むことで防御力を補いつつ軽く仕上げていて、足と脛全体を覆う……脚絆のような履物にも似たような細工がしてあるそうだ。
見た目としては甲冑を身に着ける前の武士というか、旅装というか、そんな感じで……ついでに幅広の鉢巻や、頭巾、作り直してくれたらしいゴーグルやマスクもつづらの中に入っている。
鉢巻は金属の糸で編んだ鉢金の変わりの代物で……他のもんはダンジョンによって使い分けろと言うことらしい。
ポチには以前の浅葱色の着物と、同じく篭手と履物。
コボルトに合わせた大きさという以外は、ほぼほぼ俺と同じものが入っていた。
頭巾にその耳を受け止めるための小さな二つの膨らみがあったりもするが、まぁそれもコボルト向けの工夫という感じだろう。
シャロンの装備は……まさかの割烹着そのままだった。
普通の着物と真っ白な割烹着と頭巾、篭手というよりも真っ白な手袋といった様子の代物と白い履物。
シャロンは基本後方で戦うからか、機動力よりも防御力を優先することにしたようで、例の糸を編み込んだ着物を重ね着することで、とんでもない防御力を獲得できる……らしい。
クロコマの狩衣も同様だ。
布を何枚も折り重ねる狩衣は、かなりの防御力となってくれるようで……何故か頭襟もそのままだ。
以前と違うのは白い狩衣に銀糸で模様が入れられていることで……胴の辺りに大きく円を描き、その中に恐らく狛犬と思われる姿が描かれている。
どうやらそれはクロコマがこっそりと発注していたものであるらしく……その狩衣を手にとったクロコマは、ご満悦といった表情だ。
勿論そういった発注をしたなら余計に金がかかってしまう訳で……クロコマだけ俺達とは段違いの支払いを請求されている。
それでもクロコマはご満悦で、満足そうで……まぁ、本人が納得しているのなら構わねぇけどなぁ。
更に全員分の襦袢などもつづらの中には入れられていて……それを着るか着ないかは己で判断して、機動力と防御力を上手く調整しろということらしい。
「ちなみにだが件の糸を使った褌は無理だったから期待するなよ!
形状的には作れなくはないんだが、あんな風に巻きつけたりねじったり縛ったりは無理だ!
股間を守りたければ他の方法を模索した方が良いだろうな!」
確認と支払いを終えてつづらに装備を戻している俺達に牧田がそんなことを言ってきて……俺達は愛想笑いも返さずにさっさと防具をしまって、つづらを抱える。
「ま、とりあえずはありがとうよ。
これで新しいダンジョンにも問題なく挑戦できそうだ。
また新しい素材を持って帰ってきてやって、新しい装備が作れるようにしてやるから期待しとけ」
そんなことを言いながら俺達が立ち上がると……牧田は笑いながら言葉を返してくる。
「がっはっは!
そうだそうだ、どんどん新しいもんを持って帰ってこい!!
まさかこの歳になってこんなにも新しい素材に出会えるとはな、こんなにも新鮮な具足を作れるとはな! まったくもってたまんねぇよ!
新しいダンジョンに挑んでるのはお前らだけだそうだしな……儂がもっともっと楽しめるように、どんどかあっちの品を持ってかえってきやがれ!!」
「おう、すぐに山程持ってきてやるよ!」
俺がそう返して……それを挨拶に工房を後にして、俺達はつづらを抱えながら組合の屋敷へと向かい……その途中で次のダンジョンについての会話を交わしていく。
「あー……次のダンジョンは江戸城内にあるんだったか?」
「はい、二階の隅っこの部屋にあるとかなんとか。
恐らくですがそんな所にあの境目が出来てしまったから、位置を合わせる形でそこに部屋を作ったんでしょうね」
俺の言葉にポチがそう返してきて……クロコマが更に続く。
「ちなみにだが次のダンジョンは荒野だそうだ。
ワシが読んだ資料に、以前ダンジョンに挑んだ者達の愚痴やら何やらがつらつらとかいてあったからな……中々の難所であるようだ」
すると今度はシャロンが、空を仰ぎ見ながら声を上げる。
「荒野っていうとえーっと……確か大陸の方にある草も木もない乾いた大地、でしたっけ?
川とかの水気が無いからそうなるとかで、気温もうんと高いらしいですね。
それと風が吹く旅に砂が舞って目に入り込むとかなんとか……」
「そうするとマスクとゴーグル装備は必須かねぇ。
牧田が新しく作り直してくれたし、随分と使いやすくなっているようだから、それでも全く構わねぇが……」
そんな俺の言葉を受けて今度はポチが声を上げてくる。
「いえいえ、光景が荒野というだけで、結局はダンジョンですからその心配はいりませんよ。
森の中だからといって、毒草や毒虫に気をつけることはなかったでしょ?
それと同じで砂粒だとかにも気をつける必要はないようです。
第四ダンジョンには砂漠という砂の大地もあるそうなんですが……砂に足が沈んだりもないそうで、まぁ例の見えない床や壁があって、それらの被害を防いでくれているって感じですかね」
「はぁん、なるほどね。
荒野も砂漠も名前しか知らねぇ異国の光景だからな、そういった面倒がねぇなら旅行気分、観光気分でちょっとは楽しめるかもな」
そんな俺の言葉に一同は、頷いたり考え込んだり、それぞれの反応を示す。
今までのダンジョンの光景だって異界の……異国異常に遠い世界の光景だった訳だが、森に洞窟に草原に、この日の本のどこかにありそうな……探せば似たような光景を拝めるだろう、光景ばかりだった。
だが荒野や砂漠となると中々拝めねぇというか、想像もできねぇというか。
鳥取藩の方に砂の山があるそうだが、それでも荒野や砂漠とはまた違った光景なんだろうしなぁ……。
と、そんな事を考えていると組合の屋敷が道の向こうに見えてきて……屋敷へと到着した俺達は、装備が揃ったのだから明日辺りに第四ダンジョンに挑むことにしようと、そんなことを話し合ってから解散し……それぞれの準備を整えるために、各自の部屋へと向かっていくのだった。
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