第104話 第四ダンジョン攻略の前に
組合員の鍛錬が終わり、問題なくダンジョンに潜れるようになって……そうして俺達は、第四ダンジョンを攻略するために……具足師、牧田の工房へと足を運んでいた。
牧田の工房には何人かのエルダーが技術協力とでも言ったら良いのか、住み込みで働き、新しい……より強い武具を作れるようにと牧田と共に研鑽を重ねているそうで、その中間報告というか、とりあえずそれなりの品が出来たから見に来てくれとの連絡を受けて、足を運んだという訳だ。
門を通り、工房を正面に見やるともうその時点で以前とは違う様子が伝わってくる。
まず奥の方にあるらしい鍛冶場などから上がっている煙の数、量が明らかに増えているし、ドワーフ特有の大きな声が響いてきている、玄関へと足を運んでみれば……いつもは何人かの職人やコボルトが静かに作業しているだけだった作業場が、エルダー達でごった返し、エルダーと人間の職人とコボルトの職人が力を合わせながら、なんとも騒がしく一つの作業に取り組んでいるという光景が視界に入り込んでくる。
「おうおうおう、そこだそこだ、そこをしっかり押さえておけよ!
こっちの仕事が終わるまではそのままだ……よしよし、コボルトのあんちゃんそこを頼むぜ!
あー、まったく、コボルトは体が小さくて手も小さくて、小さいところに入り込んでのこまっけぇ作業が出来るから、色々と手順すっ飛ばせてありがてぇったらねぇぜ!」
そんな声を上げているエルダーを中心とした組もいれば、
「よーしよし、そうだそうだ、針仕事は丁寧にやれ。
丁寧にしっかりと糸を通したならその分だけ頑丈に出来上がるんだからな。
コボルトと一緒に仕事をするんは今日は始めてだが、どいつもこいつも真面目に取り組んでくれて、助かるったらねぇなぁ」
なんて声を上げているエルダーを中心としている組もいて……中々どうして上手い具合にやっていけているようだ。
そんな風に変わった工房の欠点をあえて上げるとするならば……熱気だろうか。
大勢のエルダー達が額に汗しながら働いていて、その筋肉を唸らせていて……見た目的にも体感的にもなんとも暑苦しい光景が出来上がっている。
……あまりの暑苦しさに、もうそろそろ冬が来るはずなんだがなぁと、そんなことを考えながら視線を巡らせていると……俺達が来たことに気付いたのだろう、牧田が奥から姿を見せて、こっちにこいと手仕草でもって伝えてくる。
それに従い工房に上がりこんだ俺達は、ドワーフ達の隙間を縫うようにして足を進めて……工房の奥の廊下を進み、牧田がこっちだと示した部屋へと足を進める。
「おう、悪かったな。
作業場はどうにも暑苦しい上に煩くてな、話をするには向かねぇんだよ!
色々と手伝ってくれて、新しい技術や知識を教えてくれて……ありがたいはありがたいんだが、あの暑苦しいのだけはどうにもなぁ。
肉ばっか食ってるとああなっちまうのかねぇ!」
なんてことを言いながら牧田は部屋の奥へと腰を下ろし……俺、ポチ、シャロン、クロコマはその前に横一列になって腰を下ろす。
すると牧田は背後から折りたたまれた一着の着物を取り出して……ポチの方へと差し出す。
「こいつは以前作った、異界の糸を織り込んだものの改良版だ。
エルダー達が糸だけで織っているようじゃまだまだ甘いとか言い出しやがってな……そういう訳でこいつには、エルダー達が作った金属の糸みてぇなもんが編み込んであるんだ」
その言葉を受けて俺は顔をしかめ、ポチは鼻筋にシワを寄せる。
金属の糸、つまりは針金か?
そんなもんを編み込んでしまえば確かに強度は上がるんだろうが、その分動き辛くなるし、重さが増すし……どうにもこうにも良い品だとは思えねぇ。
どうにか着物の形に仕上げて折り畳めるようにはしてあるようだが、そんな訳の分からんもんを着るくらいなら素直に鉄製の胴でも装備した方がマシだろうと、そんなことを俺とポチが口にしようとすると……牧田は分かっているとばかりに頷いて、片手を上げて俺達を制止し……言葉を続けてくる。
「あーあー、分かってる分かってる、お前らの言わんとすることは十分に分かってるってんだよ!
……全く、俺は牧田だぞ? そんなことくらい言われなくとも分かってるって話だ。
……で、お前らの疑念に対する答えは……まぁ、口で説明する前にまずは物を見てくれや!」
そう言って牧田は着物をひっつかみばさりと広げようとして……金属の糸が編んでいるという着物は予想していたよりも素直に、綺麗にばさりと広げられてその裾をたなびかせる。
「硬くしすぎて動きにくくなっちゃぁ元も子もない!
ゆえに金属の糸が編んであるのは一部だけ……動きに影響がない部分だけなんだよ!
動きに影響がありそうな部分には最初から編んでいないか、あるいはほんの一部だけに編み込んで、出来るだけ動きに影響しないように工夫されている。
分かりやすく言うと……そうだな着物に何枚かの小さな鉄板を貼り付けているような感じで想像してみると良い!
大きな一枚の鉄板なら邪魔になるんだろうが、小さな鉄板が何枚か、関節部以外に貼り付けてあるだけならなんとでもなるだろう?
大体はそんな感じでな……まぁ、異界の糸を使っただけのものよりは良い強度に仕上がっている。
儂にはどんな素材で作ったのか、どうやって作ったのかも分からん、エルダーにしか作れねぇ金属の糸も中々の逸品だからな、ただの糸と侮るなかれ、刀でも斬れねぇような強度となっていやがる!
重さもそれ程じゃねぇし……慣れるまではちょっとした違和感があるかもしれねぇが、それも慣れちまえば問題ねぇ!
……こいつに問題があるとすれば、それは生産性の悪さだな。布の一部にだけ織り機では扱えねぇ糸を編み込むなんざぁ、手間でしかねぇからなぁ……そういう訳で今は、コボルトの分を一着作るので精一杯って訳だ」
そう言って説明を終えた牧田は、ポチに着物を着るように促し……ポチは何はともあれ試してみるかと、今着ている着物の上に羽織る形で袖を通し始める。
布の作り方には詳しくねぇが……着物の一部にだけ、織り機を通せない糸を使うとなると、ある程度織ったなら織り機を止めて、手作業でその糸を通してまた織り機を動かす、とか、そんな作業が必要になるのだろうか?
それを着物のあちこちに……いくつもの鉄板を貼り付けるかのような形で編み込むとなると、それはもう膨大な量の作業が必要そうで……そんな糸が編み込まれた布を着物の形に仕立てるなんてのも、かなりの苦労があるのだろうと察することが出来る。
後はこの着物にそれだけのことをする価値があるかどうかだが……と、俺がそんなことを考えていると、しっかりと羽織、帯紐を締めたポチが、何を思ったかその場ででんぐり返しを始める。
二回三回ころころと、転がり続けたポチは……ある程度転がった所で、両足を畳の上に投げ出す形で転がるの止めて「ふぅん」と声を上げてから口を開く。
「うん、中々悪くないですよ、これ。
慣れれば確かに動きやすいですし、そこまで重くないですし……鉄製の具足を身につけるよりはかなり楽になると思います。
これで刀でも斬れない程の強度があるのなら、良い防具になってくれるかもしれませんね」
そんなポチの言葉を受けて牧田は満足そうな顔をし、シャロンとクロコマは驚いたような顔をし……そうして俺はポチが言うならまあ信じてみるかと頷き、牧田へと向き直り、
「そういうことなら、とりあえずこれを人数分頼むよ」
と、新装備の注文を済ませるのだった。
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