第101話 決起集会

 

 また絶対にこの店に来てやると……焼き栗とカニの炊き込み飯を絶対に食ってやるぞと、そんな決意をしながら店を後にした俺達は、まずはサキを送るためにサキの家へと足を向けた。


 そうしたなら今日は世話になったと礼を言って、また菊の花を楽しませてくれと、そんな事を言って……ネイを家まで送る為に、夕暮れの中二人でそちらの方へと歩いていく。


 歩いて歩いて、ある大通りに出た所で……視界の隅におかしなものが映り込み、俺はそちらへと視線をやりながら、足を止める。


「何よ、どうしたのよ?」


 そんな俺にネイがそう声をかけてきて……俺は先程のそれが見間違いであることを祈りながら周囲に視線を巡らせる。


「いや、今な、戦支度をしたやつがそこを通ったんだよ。

 そこの長屋と長屋の間の、小道の向こうにすっとな」


「何を馬鹿なこと言ってんのよ、こんなご時世に戦支度なんて―――」


 俺の言葉に対し、ネイがそう返してきて……返してくる途中でまたも戦支度をした長身の誰かがすっと小道の向こうを通っていく。


「な? 本当に通っただろ?」


「な? じゃないわよ!! な、何よ今の!?

 なんか銀色の兜に鎧に、ど、どう見ても普通の甲冑じゃなかったわよ、あれ!?」


 頭全体ではなく、顔全体と頭の前面を覆う、銀色の仮面のような兜をして、銀色のピカピカとした胴をつけて……真っ白な木なのか金属なのか、よく分からない素材の大弓をしっかりと手で持って、颯爽と歩いて言った何者か。


「なんか、金髪だったような?

 ……もしかして、あれ、エルフか?」


「え、エルフがなんだってこのお江戸で戦支度なんてしてるのよ!? そんなの見間違いで―――」


 と、またも俺達がそんな会話をしていると、今度は背の低い何者かがのっしのっしと歩いていく。


「……今度はえらく背が低かったな。

 角つき丸兜に、革素材があちこちに使われた丸胴に……大きな両手斧と来たか」


「……あ、私、なんか分かっちゃったかも。

 あいつらが向かってるのって、狼月、アンタの家の方よね? アンタの家に集まっちゃってるんじゃないの? 戦支度をしたエルフとドワーフ……いえ、エルダー達が……」


 実のところ俺も、二度目にした時点でそうではないかと察してはいた。

 察してはいたのだが、まさかそんな面倒なことが現実に起きているなんてことを信じたくなくて、目を逸らしていたのだが……こうなっては仕方ねぇ、現実を見るしかねぇかと、ネイと共に進む方向を変えて我が家へと向かう。


 すると何人も何人も戦支度をしている連中の姿を見るようになっていって、そいつらが見事に我が家の前に集まってしまっていて……俺はネイと共に大きなため息を吐き出しながら、そいつらの下へと向かって声をかける。


「……アンタら、なんつー格好してんだよ。なんつー格好で人の家に来てんだよ。

 一体全体何をしにきやがったんだ」


 すると、そんな戦支度連中の中からずずいと、昨日に見た……エルダードワーフのグルムリが顔を出してきて、言葉を返してくる。


「おお、坊主! でかけておったのか!

 ようやっと話し合いと準備が終わってな……決起集会に来たという訳よ!

 という訳で、江戸に残ったエルダードワーフのうちの三十五名と、エルダーエルフのうちの二十名が坊主と共に戦ってやろうではないか!」


「ば、馬鹿を言うなよ、五十人以上でダンジョンを攻略だなんて、非効率にも程があるぞ!?」


「おーおー、分かっとる分かっとる、ダンジョンには広い空間もあれば数人でしか通れないような狭い通路もあるんだろう?

 そこら辺の情報はしっかり仕入れたから分かっとるとも。

 で、だ……共に戦うというのは何も、常に一緒に行動するってことじゃぁねぇだろう?

 別行動をしたって良いし、同じダンジョンを何組かに別れての同時攻略をしたっていいし、やり方は色々よ。

 とはいえ儂等は戦場から離れてもう随分と久しいからな……まずは坊主達からダンジョンの情報を貰いながらの第一ダンジョンの攻略から始めようと思っておる。

 第一ダンジョンを攻略して、鬼とやらを攻略して……お主らが未知のダンジョンを攻略しとる間、攻略済みのダンジョンでの素材稼ぎをしておいてやろうって訳だ」


 俺達がし払う対価はそれぞれのダンジョンの魔物と親玉の情報を明け渡すことと、あちらに戻るきっかけを得られるかもしれないダンジョン攻略をし続けること。


 エルダー達はその対価に報いるため、攻略済みダンジョンを攻略し続けて、手に入った素材をこちらに送ってくれるんだとか。


「儂等の目的はあくまで坊主達の支援で、金じゃぁないからのう、稼いだ素材はまぁそうだな、装備代やら生活費やら分は頂くが、それ以外は全て坊主達にくれてやる。

 坊主達はそれを使うなり売るなりして、もっともっと先へと進んでくれりゃぁそれで良い。

 それだけじゃぁなく、坊主達が懇意にしとる鍛冶職にエルダードワーフの腕利き職人を派遣してやるし、薬師の嬢ちゃんにはエルダーエルフが指導をしてやるし……上様の計画とやらにもエルダーの職人達を派遣してやろう。

 現場仕事はドワーフが、最新機関の研究はエルフが、それぞれの得意分野で腕を振るってやるわい」


 そう言ってグルムリは胸を張って、ぶはんっと大きな鼻息を吐き出す。


 その鼻息で立派な髭が大きく揺れる中……俺が言葉を返そうとすると、それよりも早くネイが声を上げる。


「……分かった、そういうことなら私達の商会も協力してやろうじゃないの。

 素材の鑑定や仕分け、どれを売ってどれを狼月達に渡すかの判断、エルダー達への給金や経費の支払い。

 人が増えれば増えるほどそういった帳簿仕事は増えるはず……そんなのをやりながらダンジョン攻略が出来る程、アンタ達は器用じゃないでしょう。

 ただ善意の協力だけなんてのも気持ち悪いから、いい仕事をしたら給金を増やすし、ドロップアイテムの中でドワーフ好みのもの、エルフ好みのものがあったら融通するし……望郷の思いを慰められるようなものも、出来るだけ回せるようにしてあげる。

 もちろん関わる以上はそれなりの手数料は頂戴するけど……そうね、友達価格ってことは手加減はしてあげるわよ」


 ネイのその言葉を受けてグルムリは満面の笑みを浮かべて……エルダードワーフ達もエルダーエルフ達も、そいつはありがたいとか、良い酒が飲めるかもとか、そんなことをなんとも楽しそうに、賑やかに口にし始める。


 それはもうまるで決定事項かのように話が進められていて……頭をがしがしと掻いた俺は、


「ああもう仕方ねぇなぁ……そうなっちまったら仕方ねぇよなぁ。

 ネイにグルムリに、エルダーのお歴々に……皆の力を借りてのダンジョン攻略、頑張らさせてもらうよ」


 と、そう言って……これからは賑やかなダンジョン攻略になりそうだと、大きなため息を吐き出すのだった。

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