第74話 新装備


 翌々日。


 俺達は具足師の牧田に呼び出されて、牧田の工房へと足を運んでいた。


 頼んでいた防具がようやく完成したとかで、工房の小上がりで茶を飲みながら牧田が姿を見せるのを待っていると……牧田と職人コボルト達が様々な防具……というか服を手に持ってこちらへとやってくる。


 そしてそれを受け取ろうと俺が手を差し出すと牧田はなんとも不機嫌そうな表情をし……まずは話を聞けと、そんな顔をしてからゆっくりと口を開く。


「お前らのために作ってやった革の防具は中々の良い経験となった!

 安く簡単に作れて量産性があって、それなりの硬さと柔軟さがあって小鬼とやらの攻撃を確実に防いでくれるからな……ダンジョンに初めて挑むにはうってつけの装備って訳だ!

 マスクもゴーグルも合わせて素人連中には中々好評でな、おかげで良い商売をさせてもらってるよ!!」


 そう言って俺達の側にどかんと、片膝を立てて座り込んだ牧田は……手に持っていた服をそこらに投げ出し、膝をばしんと叩いてから言葉を続けてくる。


「だがまぁ、所詮は革……どうしても防御力に難があるというか、アレで小鬼より格上の連中の攻撃を防ごうとなると、どうにも限界ってもんがある!

 ならば鉄造りにするかとも思った訳だが……その鉄をあっさりと溶かす敵が出てきた上に、上様が鉄を欲してなさるとなったら鉄を無闇に使う訳にもいかねぇ!

 ならばいっそ、防ぐよりも避ける方に主眼を置いて防具を拵えたらどうだと思ったって訳だよ!

 革は革で悪くはねぇんだが……どうにも動きが固くなるし、重くて動き回れねぇし、蒸れて熱がこもるってのも良くねぇ。

 そこのデカブツ……狼月とかいったか? 最近お前は着物姿でダンジョンに潜ったそうだが、それもつまりはそういうことだろう? 動きやすさを求めてのことだろう? なら丁度良いじゃねぇか!

 ……以前、そっちのコボルトには動きやすさ優先の防具を作ってやった訳だが、それも革じゃぁどうにも限界があったからなぁ!」


 そう言って牧田は、側に置いていた着物を手に取り、ばさりと広げてみせる。


「そんな訳でこれを作ったって訳よ!

 見た目には普通の布っつうか普通の着物だがな! ドロップアイテムの中にあったあちらの服やら何やらをバラして作った異界の糸が編み込んであんだよ!

 なんでも向こうの服の中には、魔物が作り出した糸が使われたものがあるとかでな……これが中々どうして、よく伸びる上に切れにくいというかなんというか、刃にも負けない強さがあってなぁ……鉄程じゃぁないが、革よりは斬撃に強い仕上がりになっているって訳だ。

 槍での突きもまぁ当たりどころが悪くなけりゃぁ防いでくれるだろうが……その衝撃は防げねぇし、拳や棒で殴られたならそれはそのまま内側へと響いてくる。 

 そういう意味じゃぁ革以下とも言えるが、そこは軽さと柔軟性と、通気性で勝っているんだから……ちょこまかと動き回ることでなんとかしてくれや。

 本来はコボルト用にって作ってたんだがな……ま、魔物共の得物に合わせて革とコイツを上手く使い分けてくれや」


 と、そう言って牧田はその着物を俺達の方へと押し付けてくる。


 俺の着物は真っ赤な火焔模様の布を使った旅装に近い代物だった。

 小袖に脚絆……わざわざ褌やサラシまで同じ布で作ってくれたらしく、着物の中に包まれている。


 ポチには浅葱色の布を使った、コボルトサイズの小袖に脚絆、シャロンには薬師として働いている時に見た割烹着と薄桃色の薄手の着物……そしてクロコマには今着ているものと全く変わらない見た目と造りの狩衣。


「……よくもまぁ、この短期間でクロコマの分まで仕上げたな」


 それらの確認をしながら俺がそう言うと、牧田は「ふんっ」と荒い鼻息を吐き出してから言葉を返してくる。


「普段から作ってるっつーか、作り慣れている狩衣なら余裕に決まってんだろ!

 それにコボルトの着物は人間のに比べて小さくて済むからな、手間も時間も人間の着物程にはかからねぇんだよ。

 ちなみに履物に関しては革のままが良いと思うぞ、こっちでも色々と試してみたんだが……中々良いものが出来上がらなくてな、手甲に関しても同じものにすると良い。

 まぁ、注文してくれりゃぁ新しいもんを作るがな、そう良いものは作れないと思ってくれ」


 そんな牧田の説明を聞きながら俺達はそれぞれの分の装備を手に取り、軽く体に当ててみるなり、袖を通してみるなりして、その大きさや着心地を確かめていく。


 どれもこれも問題なし。

 刃を防ぐ云々については触った感じや着た感じではよく分からねぇが……ま、牧田のことだ、首尾よく仕上げてあるんだろう。


「これ以上となると鎖帷子や南蛮鎧、甲冑とかになるんだろうが……どうしてもあれらは人と戦うのを前提に作られてるからな。

 魔物とやり合う……魔物を狩る為の鎧甲冑となったら、今のままじゃぁダメだ。また別視点の作りというか、案が必要になるんだろうな。

 ……ま、そこらに関しても既に研究は進めてあるから期待しとけ。

 お前らのおかげで景気は良いわ、注文はどんどか来るわで、懐はあったけぇし弟子入りも途切れることなく来てくれてるからな。

 ……具足師としてそれなりの具足を……魔物狩り具足を仕上げて見せらぁ」


 そう言って牧田は再度己の膝をばしんと叩き……その勢いと意気でもってよっこらせと立ち上がり、工房の奥へと足を進めていく。


 既にそれらの防具の支払いを済ませていた俺達は、そんな牧田の背中に礼を言ってから……それぞれの防具を綺麗に畳んだ上でしっかりと抱えて……そうして牧田の工房を後にするのだった。

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