第60話 これからの話


 笑う俺達のことをポチ達が見つけて、


『一体全体、何をそんなに笑っているんですか?』


 と話しかけてきて、俺達が事情を説明し、ポチが驚くやら呆れるやらする中、店員と客達があのポチさんがやってきたと騒ぎ出して……ちょっとした一騒動が起きることになった。


 我らが英雄、我らが希望の星、ポチさんのご来店。

 それを受けてコボルト屋はまるでお祭り騒ぎの、大宴会状態へと突入することになった。


 店長コボルトが今日は店の奢りだと声を上げ、客達が一斉に沸き立ち、そんな賑やかさに惹かれた人々が次々と集まってきて、更に更に盛り上がり。


 そうして気付けば時刻は夕刻、流石に騒ぎすぎたし食べ過ぎたと俺達は、コボルト屋を離れ腹ごなしにと江戸中を歩いて回ることにした。


「あー……食いすぎたなぁ。

 コボルト屋の飯は安くて食べやすくて、ついつい食いすぎちまうのが欠点だな。

 腹がおもてぇったらねぇ……こりゃぁ肥えるぞ」


 俺がそんなことを呟くと、何やら深刻な表情をしていたネイとシャロンが、大きく腕を振り、脚を振り、食い過ぎで膨れた腹をどうにかしようと、元気に身体を動かし始める。


「いやー……まさか僕があんな風に噂になっているとは。

 ダンジョン以外の部分でも、僕達の活動は結構な影響を与えていたんですねぇ」


 そんな中でポチがそう呟いてきて……腹を一撫でした俺は「そうだなぁ」と呟き、言葉を返す。


「色々と噂になるまでは計算通りだったが、こういう形になるってぇのは予想外だったな。

 ……ま、悪い影響って訳じゃぁねぇんだし、良いことじゃねぇか。

 そのうち天下の大英雄ポチ様なんて呼ばれ始めるんじゃねぇか?」


「……英雄よりは学者として名を馳せたい所ですけどね……。

 狼月さんが武芸者、ネイさんが商人、シャロンさんが薬師として大成したいと思っているように、僕の夢は碩学者なんですから」


「英雄であり学者でもある、ってのもありだと思うがな。

 ……それこそ黒船計画が上手く行けば、そっちの方でも歴史に名を刻むことになるんだろうしなぁ」


 と、江戸城の方を見やりながら俺がそう言うと、ポチが手をポンと打ってこちらを見上げながら言葉を返してくる。


「ああ、そうそう。

 上様からその件について言伝がありましたよ。

 大アメムシから手に入れた鎧などの品々の調査をしたところ、かなり質の良い鉄が使われていたとかで、ああいった品がもっともっと、大量に定期的に手に入ると計画が捗るので助かる、とのことです」


「手に入れてくれったって……なぁ。

 あの扉が出現するのは一回限りな訳だしなぁ……俺達にどうこう出来るもんじゃぁないだろ?」


「……とも限りません。

 あの扉が再出現するのかしないのか、しっかりと時間をかけて調査した訳ではないですし……再出現する可能性が全く無いとはまだ今の段階では言い切れないでしょう。

 もし仮にあの扉が再出現するのであれば、何度も何度も出現してくれるのであれば……黒船計画的にも僕達の財布的にもかなりの朗報となります。

 特に上様は低難易度のダンジョンなんかで質の良い鉄と、レリック・アーティファクトが手に入っていることを大いに喜んでいるようでして……」


 とのポチの話に俺はなるほどな……と、頷く。

 塩や石灰が驚く程に効果的な大アメムシ、アレを倒していくだけでそういった品々が手に入るとなったら、こんなに都合の良い話は無いだろう。


 特にあのダンジョンはあっという間に最奥に到れる近道がある訳で……あの扉を再出現させる方法さえ分かれば、大アメムシだけを狙っての狩りが……ドロップアイテム稼ぎが出来るって訳だ。


 再度なるほどなぁと頷いた俺は……少し考え込んでからポチに言葉を返す。


「しかしそうなると、第三ダンジョン以降の攻略はお預けってことになるな。

 第二ダンジョンの攻略法の確立と、あの扉の謎の解明……それらが済んだらずっとあの第二ダンジョンに張り付いての鉄稼ぎをしろってことなんだろうし……」


「僕もそう考えていたのですが、上様としては第三ダンジョンの攻略も進めて欲しいようですね。

 第一第二と順調に……色々な発見をしながら攻略している僕達であれば第三でも新たな、全く予想もしていなかったような発見をしてくれるかもしれない、とそんな期待もしているようです」


「いやいやいやいや……。

 そんなアレもやってくれコレもやってくれなんて言われてもな、いくら上様の希望たって出来ることと出来ないことがあるぞ。

 ……一体全体俺達にどうしろってんだ?」


「狼月さんの言う通りあの扉にまつわる様々な謎の解明、これは最優先でしょう。

 そしてそれらの謎の解明が出来たなら、次に着手するのは鬼や大アメムシの安全な攻略法の確立となります。

 そしてその二つが成ったなら……他の探索者達にその情報を渡し、彼らに稼いで貰い……僕達は先のダンジョンに進むと、そういう訳ですね」


 そう言われて俺は、もう一度なるほどなぁと頷く。


 元々俺達がダンジョンに入ることになった最大の目的は黒船計画を成功させる為の資材を手に入れる為だった。

 それがかなり簡単に……多くの人手を使って効率的に行える『かも』しれないとなったら確かに調査はすべきだろう。

 

 調査して、その方法が確実なものとなったら、大アメムシを簡単に確実に、安全に狩れるようにして、皆で倒して倒しまくって稼ぎに稼ぎまくって、資材を一気に手に入れての黒船完成……ああ、遠い夢のように思えていた計画が、なんだか手の届くとこまで来たって感じがするな。


 と、そんなことを考えていると、俺の内心を読んだらしいポチが言葉を続けてくる。


「……とは言えまだまだ、本当に扉が再出現するのか、出現させるにはどうしたら良いのか、何もかもが分かってない段階ですから、ただの仮説でしかないですけどね。

 ……それでも、無駄に終わるかもしれないとしても調査をする価値はあるでしょう。

 調査をしながらドロップアイテム集めもしておけば全くの無駄にはならないでしょうし、上様はそちらにも期待しているようです。

 第二ダンジョンにおいては、アメムシから角や牙、様々な道具に錆びた武器などが手に入りました。

 角や牙も工芸品の材料として中々の人気を博しているようですし、錆びた武器なども溶かせば鉄になります。

 角や牙が手に入ればネイさんも参加している商業区が発展することでしょうし、鉄が手に入れば黒船の建造が前に進むことになります。

 他にも建材になるようなものが手に入れば造船工廠の完成度が上がるはずですし、未知の素材が手に入れば最新機関の研究開発が前に進むはずです」


 黒船計画が前に進み、江戸の町が大きく発展し、俺達の財布が大きく膨らむ。


 ダンジョン探索を始めたばかりの頃はぼんやりとしていたそれらの目標が、なんだかはっきりと……手が届く所にやってきたようで、俺はやる気を溢れさせながら肩をぐいと回す。


 美味い飯を腹いっぱい食ったこともあって、やる気だけでなく力までが溢れ出てくる中俺は、


「そういうことならまぁ、また明日から頑張るとするかな!」


 と、そんな大声を上げるのだった。


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