第3話 変化する日常
まず、それは買い物を終えて家に帰ったところで起こった。
『さっきは色々と話に付き合わせちゃってゴメンねー!!
そして連絡先を教えてくれてありがとう!!
しかしメッセアプリに入れてないなんて驚いちゃった!!
メールとか久々に使ったよ~
それじゃあ、これから連絡事項があったらメールで教えるからよろしくね!!
さっそくなんだけど、明日の現文で資料集が必要らしいから忘れないようにね~
それとよかったら教えて欲しいんだけど、野菜が嫌いとか苦手とかある?』
帰宅直後に藤澤から、このような文面のメールだ届いたのだ。
連絡事項はいいとして、まず長い。父親以外とやり取りをしてない自分にとって、このメールはとても長く見えた。
そして色んな部分に散りばめられた絵文字というやつが色鮮やか且つ賑やかに動いている。
同年代くらい女子だと、みんなそんな感じなのか?
そして何より気になるのが、最後の一文だ。
なぜ俺に野菜の好き嫌いを聞いてくる?
分からない、女子高生が分からない……。
だからといって同性の友人もいないから、男子高校生のことも分かるわけじゃないが。
でもしかし、親切に教えてくれてるわけだから頑張って返信をしないとな……。
『大丈夫だ、問題ない。
こちらこそ連絡メールありがとう。
野菜の好き嫌いは特にない。』
無理だった……。
多少これでいいか悩んだものの、そもそも俺は長ったらしい文章を書くのが苦手なんだ。
そして藤澤と同じように絵文字を使うなんてもっと無理だ……!!
どうやって選んでるのか分からん。
だからもうコレでいい、送信。
……よしこれで終わりだ。
よく考えると父親以外とメールするのは初めてだな……。
父親のメールはもっと簡素で、最低のことしか書かれていないようなものなので返信もだいぶラクだ。
ふう、普段しない慣れないことをしたせいか喉が渇いた水でも飲もっと……。
しかし、これはほんの始まりに過ぎなかった……。
この日以降、メールは必ず毎日届くようになったのだ。
内容は大体最初のメールと似たようなものだが、はじめに軽く「明日は肌寒いらしいよ」とか「明日は雨らしいから傘が必要だよ」みたいな謎の雑談的なものを交えたうえで、本題の連絡事項に触れて、最後に必ず俺の食べ物の好みを聞いてくる形式になっていた。
……なぜ……なぜ食べ物?
ちなみに食べ物について聞かれた例を上げると「好きな味噌汁の具ってなに?」「アッサリとこってりどっちが好き?」「薄味と濃いめどっちが好き?」「肉と魚ならどっちが好き?」などなど……。
そんな感じで、とにかく色々聞かれた。
いや、なんでそんなに俺の好みを気にするんだ……分からん。
大体俺は食事を面倒だとは思っているが、好き嫌いらしい好き嫌いは持っていないため返事はほぼ「別に」と「どちらでも」になってしまった……。
しばらくやり取りをした後で、この返事って流石に態度悪すぎないか?と気付いて悶々としたが、もう手遅れなので開き直ることにした。
なんか指摘されたら謝ろう、そうしよう……。
そういえばメールは毎日送られて来るのだが、まるで毎日メールを送るために金曜日の連絡事項が土曜と日曜分に小分けにされているように思えるのは気のせいだろうか……。
まぁ、わざわざ俺みたいのなんかに何度もメールを送る理由もないだろうし偶然だよな?
―――――――――――――――――――――――――――……
「あっ、おはよう佐藤くんー!」
「ああー」
そして何より大きな変化が藤澤が、学校でも俺に声を掛けてくるようになったことだ。
今日は俺が教室に入ったところで、藤澤がこちらに駆け寄って来た。
「今日の小テストの勉強した?」
「まぁ、多少は……」
「そっかー、佐藤くんっていつも勉強出来るなって思ってたんだけど、やっぱりちゃんとしてるんだねー。私は趣味に夢中になってすっぽかしちゃったよー」
「大丈夫なのか、それは……」
「大丈夫大丈夫、小テストだしスグに赤点にはならないと思うから……悪くても定期テストで頑張るし、じゃあ今日もお互い頑張ろうねー!!」
そして藤澤はわざわざ手を振って、自分の席へと戻っていく。
まぁ毎回こんなこんな感じのノリで、向こうが俺に気づくと絶対に話しかけてくるようになった。
いや、本当に何故だろう……これは普通なのか……?
でもこんな風に少しだけ会話して切り上げるヤツを他に見かけた覚えがないぞ……。
そして今回は話題に登らなかったが、ここでも高確率で食べ物の好みを聞かれた。
……どれだけ、食べ物について気になっているのだろうか?
俺の方は相変わらず、藤澤のメールに対して最低かどうかすら怪しい返信しか出来てないが……。
一応、相手から何も言われてないし大丈夫だよな?
それに対面時の会話はメールよりはマシだと思っている……自分では。
最初に連絡先を交換して以降、そんなことが毎日続き、最早慣れ始めたような気さえし始めた頃だった。
あの一通のメールが届いたのは……。
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