第4話 ショートホラー「遺産」


絵里子の突然の死は、報じられることもなく、絵里子の遺産は、身よりのない絵里子のため、砺波市が、継承した。

だが、絵里子の遺産ということで、誰からともなく、「篠原絵里子美術館」の構想が出された。


総工費三億円の小さな建物は、まるで、教会のようだった。


緑深い庭をめぐらし、その中に、ひっそりと立つ建物は、「チャペル」という異名がついた。


「あの方の絵は、何か考えているような感じがありますね。」


考えながら、考えながら、描かれた。

そんな気がすると、誰かが言った。


篠原絵里子、知る人ぞ知る、早逝の「思案の人」。

それから、絵里子の使った青が「シアン」と呼ばれるようになったのは、美術界の者とて左程知る者はいない。


生まれ変わっても、絵を描くんでしょうか、あの人は…。


「絵を描く幼女」


の前で、誰かが言った。


里李子の遺産を受け取って、五年後のことだった。



―完―

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ショートホラー「輪廻」 棗りかこ @natumerikako

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ