第3話 ショートホラー「寵児」


篠原絵里子は、地元で絵画教室を開いた。

「お絵かき教室」と、看板を作って、生徒を募った。

近所の小学生、中学生が、習いに訪れた。


ある日、絵里子は、テレビ富山のディレクターから、ニュースをつくりたいと言われ、自分の作品を数点、テレビで放送させた。


すごい反響ですよ。


ディレクターは、次回もよろしくと、視聴者からの手紙を渡して挨拶をした。


県庁に絵を描いてほしいと依頼があったのは、それからだった。


件知事室に飾る絵を100号で描いて頂きたいのです。


県庁職員は、絵里子に依頼した。


絵里子は、何でもお任せしますという職員の言葉に、何を書こうか、考えあぐねた。


「運河」


絵里子の作品は、県知事室に飾られた。


その頃、恩師から、「東京でも個展を開いてみては」と、話があった。

「栄光堂画廊さんが、次回の催し物を探していてね。」


絵里子は、恩師の「丁度、10年目の区切りじゃないか。この辺で、東京に錦を飾るというのはどうだね。」という言葉に、従った。


栄光堂画廊は、青山にあった。

その話を、テレビ富山のディレクターにすると、東京の局に、知り合いがいるので、ぜひ、会ってみては…と勧められた。


伊武慎二というテレビ東京のディレクターは、絵里子に名刺を差し出した。

「あなたは、大変才能がおありなんですね。」


絵里子の個展は、テレビ東京でも、スポットニュースで取り上げられ、

中央政界の、中堅議員が顔を見せた。


「これは、売り物ですか?」

絵里子は、いいえ、と言ったが、彼らは、是非にも欲しいと、絵里子に

迫った。


「遠雷」

「層雲」

「飛燕」

その三枚は、結局売ることになったが、彼らは、それぞれ破格の金額の小切手を手渡していった。


出版もされてはどうですか?


伊武は、申信堂という出版社へ紹介し、今迄の、全作品を掲載することになった。


出版の報せが、絵里子に届いた日、絵里子は、事故に遭った。


「篠原さん、大丈夫ですか?」


絵里子の意識は、遠ざかっていった。



―完―




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