第39話 花火


「毎度っ。」


おっさんの声を後に俺たちは金魚すくいの屋台から離れた。


「ありがとね、ユウくん。」


「お、おう。」


クロの片手には、水の入った袋に金魚が一匹泳いでいる。ちなみにわたあめはもうなくなっている。


あれから結局300円(1回100円)払ったところでようやく金魚がとれた。やっぱりネットの知識だけじゃうまくいかないということなんだろう。うまい人はほんとにすげぇと思う。


「なんで急に金魚すくいに向かったんだ?」


そうこれが聞きたかった。突如としていきなりクロが向かうもんだから聞くに聞けなかったのだ。


「えっと笑わない?」


「うん。」


「ちっちゃい頃にもほかの街の夏祭りにも行ったことがあってね。その時金魚すくいをやらせてもらったんだけど全然取れなくって今日こそはって思ってたんだけど結局ダメで。」


「難しいしな。」


「でもユウくんがとってくれてうれしかったよ。ありがとう。」


クロが手にした金魚を見せながらそう言ってくれた。俺めちゃくちゃ失敗してたような気がするけど。


「それならよかったよ。」


その言葉が聞けただけでも頑張って取った甲斐があったと思う。


「また来れたらいいな。」


「…そうだね。」


なぜだろうかその時のクロの声色はちょっと寂しそうだった。


「なにk」


ドーンと花火の音が空に響き渡った。おかげで俺の声までもが遮られた。


「ねぇ、早く見に行こうよ。」


「あぁ。」


結局俺はそのことを聞き出せないまま、クロに案内されて花火を見に向かった。


◇◇◇


「人が多いな。」


「そうだね。」


花火が見えるということもあって花火が見やすい位置には人がごった返していた。これじゃあ、せっかくの花火もよく見えない。


「きゃっ。」


「クロッ。」


人に流されそうなっているクロの手を咄嗟に握り、こっちに引き寄せる。思わずクロがもたれかかる形になってしまった。俺みたいなごつごつしたような手とは違うもちもちとした柔らかい手にクロから漂う甘い香りが俺をくらくらさせる。


「その…ユウくん。」


「す、すまんっ。」


クロの声を聞き俺は握りっぱなしだった手に気が付き、すぐに手を離した。何だが手汗がひどいことになってたんだけど今ので引かれなかったかな?


「ううん、助かったよ。ありがと。」


「お、おう。」


こういうところでどもどもした返事しかできないのは、俺のリアルの恋愛経験の少なさが原因だろう。まともにゲーム内デートをしたのだって両手で数えられるくらいだし、いつもずっと一緒に話すぐらいしかしてないからなぁ。智也とかならこういうのもすまし顔で華麗に対処するんだと思う。


「そっそうだ、ここじゃあれだし別のところに行かないか?花火が見える穴場を調べてきたんだ。」


気まずい雰囲気を払拭するためにも話題を変えた。


「そうなんだ、じゃあお願いしようかな。」


調べてきたというかもともと知っている。別にこの夏まつりは、俺だって何回も行ったことがある。その時に知ったのを違和感を持たれないように調べてきたと言っただけだ。


「任せろ。」


俺はクロを連れて人の少ないほうへと向かっていく。


でもなぜだろうか。俺はなんだがすこし嫌な予感がした。


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