第37話 初めての…?


「はぁ。」


俺はいま人生で一番緊張していると言ってもいいだろう。今日という今日の日のために俺は備えに備えたつもりだ。


そう今日は、黒川との夏祭りデートなのである。


ただ残念ながらユウとしていかないといけないのでうっかり黒川と呼ぶような真似はしてはならない。


そのため身だしなみも整えてきた。もっさりした髪もワックスできちんと整えてきたし(智也が)、眼鏡をはずしてコンタクトも入れた(智也が)。服もそれっぽいのを選んだ(智也が)。


今の俺はいわゆるユウスタイルだ。心なしか周りからの視線もちょっと多いような気がする。もしかして失敗したのか?俺?


過ぎたことは気にするべきでないだろう。確認すべきは今日の段取りだ。


と言っても最後までは特にするべきことはない。俺の住んでいる街には夏祭りの締めに花火大会がある。それが終わったタイミングで俺は彼女に打ち明ける。何とも素晴らしい計画だと思う……これが智也、石崎ペアの手によるものでなければなっ!


でも実際この作戦が最もいいと思う。それに今日のために二人にはかなり頼った。正直俺一人だったら何をすればいいかも思いつかなかっただろう。そこばかりはやはり経験値が違う。二人には、感謝の念しかない。


と考え込んでいると俺のもとに誰かが違づいてくる音がした。クロが来たのかなと思い考え事をやめれば――。


「もしかして一人ですか?」


「あ、あぁ。」


見知らぬ女の子二人組に声をかけられた。それも結構かわいい。一体俺に何の用だろうか。


「良かったら一緒に遊びませんか?」


「なっ。」


これはまさかいわゆる逆ナンパというやつなのか。まさか俺がこんなことにあうなんて…。俺もしかして結構いけてるのか?それならこれから毎日このスタイルにでも…やっぱりめんどいから無理だな。


いかんいかん返事をせねば。


「すまん、待ち合わせがあるから無理なんだ。」


だが俺には、クロとの約束がある。これは破るわけにはいかないので丁重に断る。だが俺は彼女たちのことを甘く見ていたようだ。


「ならその人も一緒でいいですよ。」


「えっ。」


断れば引くと思っていたがそんなに甘くはなかったらしい。どうすれば――。


とそんな時に女神が来た。


「ユウくん、お待たせっ。」


「…おう。」


俺が思わずちょっとうわずった声を出したのもしょうがないと思う。なんとクロは浴衣を着ていた。金魚の柄が入ったとてもかわいらしいものである。髪型もお団子ヘアーにされていて、いつもと違うその姿は非常に魅力的だった。俺の理性の方もいろいろとやばかった。


「ところで…。」


そこで空気が凍り付いた。


「!?」


クロが何と俺の腕に抱き着いてきたのだ。いろいろとやばいものが当たってます。それになんだかとても柔らかいです。クロに抗議をあげたかったが無理だった。


「私の彼氏に何か用ですか?」


クロの表情は魅力的なまでに笑顔である。元の顔が整っているのも相まって道行く人々のうち男ども全員が振り返るほどである。そこはいいのだ。いや、よくはないがそれよりも問題は目だった。


目が全くと言っていいほど笑ってないのである。何だがクロの後ろにスタンドでも出てくるのでないかというぐらいには威圧感がやばかった。さっき俺に声をかけてきた女の子たちも固まって口をパクパクしてる。あっ、なんかかわいい。


「いっ。」


なんだが腕にかかる力が強くなった。思わず声をあげそうになったが何とか抑え込む。ちらりとクロがこっちを見たような気がした。もしかしてさっき女の子の方を見てたのがばれたのか?


「私たちはこれからデートなので…。」


「「すっ、すいませんでしたー。」」


オリンピックを狙えるんじゃないかともいえるぐらい全力疾走で彼女たちは逃げ出していた。いつの間にか俺とクロの二人きりである。


「じゃあいこっか、ユウくん。案内してあげるよ。」


「…そうだな、クロ。」


ユウは、ここら辺に住んでなく県外の大学生という設定だ。正直簡単にぼろを出しそうな設定だが気にしてはいけない。すでに智也と石崎にはいろいろと突っ込まれているからだ。


話を戻すとそこで地元民のクロの方が道に詳しいということで道案内を任せている。


だがクロは依然としてあの怖い顔のままだった。俺にはわかるというか誰でもわかると思うがクロは、まだ怒っている。これはどうにかして機嫌を取らねばならない。すっかり俺の興奮も冷え切っていて俺の思考も冷静なものとなっていた。


俺たちの夏祭りデートは、前途多難なようだ。


********


短編 「私と君の1年だけの関係」も良ければ読んでいってください。

サクッと読めると思います。

https://kakuyomu.jp/works/1177354054918090397



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