第36話 お誘い
「ん?黒川には言ってないのか?」
『言ってないぞ。』
俺はてっきり真っ先に黒川に報告しているもんだと思っていたからちょっと意外だった。
「そこでクロちゃん対策なわけよ。おっしーはどうしたいの?正直に言うのかそれとも隠しておくのか。」
石崎の言葉を聞いて少し考えこむ。俺は一体どうするべきなのか。
「私も智君も何も言わない。だからおっし―の思ってることを教えてよ。」
「俺は…。」
少し前の俺ならきっと言わないでずっと隠しておくことも考えた。でも今の俺の周りの人はとてもやさしかった。今までずっと隠しこんでいたこんな俺を見ても受け入れてくれた。
「正直に告げるよ。ちゃんと向き合うさ。」
だから俺は正直に打ち明けて本当の意味でクロと向き合いたい。ずっと何かを隠し続けることはとても疲れるものだ。それにそんな関係でずっといるのも心苦しい。そして何より大城雄大として彼女と付き合いたい。…最後のは無理かもだが。
「よく言ったね。じゃあこういうのはどうかな…?」
「なるほど。」
そこからはクロに対する作戦を立てていた。なかなかハードルの高いものだったがやり切って見せよう。それが俺にできる精いっぱいのことだ。
…まずは誘うところからなんだけどな。
◇◇◇
同日の夜。俺は久しぶりにアンリミを付けた。クロと一対一で話すためだ。もちろん、アークやエリーはいない。俺を気遣ってくれた結果だ。
「おひさしぶり。」
「ユウくん!お久しぶり、何かあったの?」
いつものギルドハウスに行けばすでにクロはいた。俺が来るとわかると花の咲くような笑顔を浮かべてくる。破壊力抜群だ。
「まぁ、ちょっとね。」
「そっか。それでも戻ってくれてよかったよ。」
何かを察したのかそれ以上聞いてくることはなかった。そういう気づかいの良さがすごく助かった。だが今日は話をするために来たのだ。
「「あの…。」」
話を切り出そうとしたところでクロと声がかぶった。
「先に言っていいよ。俺はあとでいいからさ。」
チキってしまった。肝心なところでヘタレる自分に嫌気がさす。だが少し余裕ができたと考えなおそう。
「分かった。」
クロは深呼吸をして息を整えている。何か重大発表でもする気なのか…?
そしてゆっくりと口を開き――。
「わ、私と一緒に夏祭りに行ってくれないかな?」
「夏祭り?でもそんなのアンリミには…。」
そこまで言って何となく察してしまった。彼女の方をちらりと見ると首を横にかすかに振っていた。彼女の顔は真っ赤に染まっている。これは現実で会おうという誘いなんだろう。
「あぁ、いいよ。俺もさ一度はあってみたいと思ってたからさ、ちょうどいい機会だよ。」
石崎主導の元考えた作戦はユウとしてクロとデートして最後に分かれるタイミングで正体を打ち明けるというものだ。ものすごく単純に見えるがこれくらいでいいだろうということだった。
「ほんと!?じゃあ、まずお祭りのあるのはここで…。」
クロがはしゃぎながら楽しそうに話をしてくれている。俺と夏祭りに行けるのがそんなにうれしいのだろうか?それなら俺もうれしい。
「ユウくんの話って何だったの?」
「いや、俺も現実の方でデートしないかって誘おうとしてたから気にしなくていいよ。」
「むー、それなら誘ってほしかったかも。」
デートなんて全然できてなかったからな。いやまぁ現実では一応あってはいたが…。
そんな俺の思いも露知らず思わず頬を膨らませるクロ。何だが頬をつんつんしたくなってくる。
「楽しもうね?ユウくん。」
「もちろん。」
本来の予定とは異なってしまったが概ね問題ない。俺は夏祭りにユウとして一緒にクロと行き、最後に打ち明けるのだ。今度こそはヘタレないぞ。・・・・絶対に。
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