第35話 打ち明けてみれば…
「いや、どうしてここが分かったんだ?」
純粋に思ったのはそれだ。なぜなら俺は、住所など教えてない。それにも関わらず家を特定してきたこの少女に驚愕せざるを得なかった。
「ん?紗帆ちゃんに聞いたんだよ。紗帆ちゃんとはいろいろお話するからね。」
「なるほど…。」
これはもうカレーの件とかいろいろ漏れていると考えたほうがよさそうだ。
「大丈夫、私は秘密を守る女だからね。だから話してもらうよ、ユウ?」
「!?」
よくよく考えてみればこいつは智也の彼女だ。智也経緯で知ってたとしても何もおかしくはない。
彼女の目つきは真剣だった。それに家にまで押しかけてきているんだ逃がす気はないのだろう。
「…分かったよ、中には入ってて。ちょっと着替えてくる。」
「わーい、やったね。」
まるで誰かに話しかけるような感じの彼女だったがそんなことは気にせず俺は、今のジャージ姿をどうにかすべく自分の部屋に服を取りに戻った。
◇◇◇
「おっやっときたねぇ。」
そこにはまるで自分の家のようにくつろぐ石崎がいた。いや何も言ってなかった俺が悪いんだけどさ。
「とりあえずお茶でもいるか?」
「うん。」
せっかく来てくれたのに何もしないのはいただけないのでとりあえずお茶でも出しておく。というより何かしておかなければ無言のこの空間がつらい。あぁ、逃げたい。
「それでそろそろ本題に入りたいんだけど。」
「あぁ。」
ついにきたようだ。今まで誰にも話したことが無かった過去の話をする時が来たようだ。
「どうして隠していたのか教えてもらってもいい?」
「実は…。」
そこから昔の話をした。昔のゲームの話、そこで出会った人たちと今になってこそ話せるが当時のことは今でもできるだけ思い出したくはない。
数分かけて話し終え、お茶を一杯飲んだ石崎が一言。
「バカじゃないの?」
「は?」
予想外の言葉に素っ頓狂な言葉をあげてしまった。
「何で私たちがそんな奴らと一緒にされないといけないの?」
「いやそれは」
「私たちってそんなに信用ない?」
「そんなこと」
「ないんだよね?じゃなければ言ってくれたはずだもん。」
「…。」
まくしたてるように聞いてくる石崎の質問に俺はうまく返すことができなかった。表情はいかにも怒ってますよとでも言いたげな顔だ。
「でもね。」
「ん?」
「話してくれてありがとう。そういう事情があったならしょうがないよ。」
「へ?」
その声色はとてもやさしく、とても心地の良いものだった。
「怒ってるんじゃ?」
「そりゃ怒ってたよ。どうして話してくれなかったのとも思ったよ。でもそんな事情があったんじゃ仕方ないよ、ねぇ智君。」
『おう。』
どうやら理解してもらうことができた。それだけに思わず安堵してしまう。って――。
「智也!?!?!?!?」
俺は周囲を見渡した。どこにも智也らしき影はいなかった。てことは―――。
「はーい、私のスマホからでーす。」
してやったりという表情の石崎。彼女の握るスマホにはでかでかと通話中という文字が表示されていた。
今までの会話をずっと聞かれてたってこと?いや、彼女をほかの男の家に入るんだ。それぐらい気になるのかもしれない。
「えっと智也その…。」
『すまんかった!!!』
携帯から発せられる大音量に思わず口ごもってしまう。
「智也が謝ることなんて『いやある。』…。」
どうやら石崎といい、智也といい、俺にしゃべる隙を与えないようである。
『俺はあの日帰ってから後悔してたんだ。少し言い過ぎたんじゃないかって。』
「…。」
『だからまず謝ろうと思った。そこから事情を聞こうと思った。』
「なるほど。」
『でもお前は一切姿を現さなかった。』
そりゃ、アンリミにもログインしてないし、携帯も何なら放置していたような気がする。
『そこで今日という日が来たんだ。さっきのおまえの話も携帯越しから聞いたんだ。』
「…。」
やっぱり智也も聞いてたんだ。
『その話を聞いて激しく後悔したんだ。ほんとに申し訳ない。』
「いや、打ち明けなかった俺が悪いんだよ。」
『そんなことない。無理矢理問い詰めた俺の方が…。』
「いや俺の方が…。」
『だから…。』
「はーい、ストップ。これ以上続けられたらたまらないからね。」
いやこれは智也が悪い。俺が悪いのに頑なに認めようとしないんだから。うん、そうに違いない。
『分かった。ただ一つ言わしてくれ。何か困ったことがあったら何でも頼ってくれよ。俺たちは親友だからな。』
「親友か。」
こんな俺でも親友と言い切ってくれる智也。ほんとにお前はいい奴だよ。
「おっと私も頼ってくれていいからね。」
「石崎。」
どうやら俺の周りの人間はいい奴ばかりのようだった。
「それじゃあ、始めようか。」
『なんだ?』
とそこで突然切り出した石崎。何を始めるんだ?どうやら智也もわかってないようだし。
「そりゃあもちろん。クロちゃん対策会議だよ。」
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