第32話 過去 3
セリアとリンに(半ば)無理矢理に連れてこられたのは、NPCの営む小さなカフェだった。俺に向かい合うようにして二人は座った。注文をし終えたところで彼女たちは話を始めた。
「今日は本当にすいませんでした。私、ああいうことが迷惑行為だと知らなくて。」
「いや、その件はもういいって。」
申し訳なさそうにそういってセリアは頭を下げてきた。ああいうこととはモンスタートレインのことだろう。俺だから良かったが大半の人間はそのような行為をしてくるプレイヤーのことを嫌っている。下手をすれば掲示板などにさらされ、半強制的にゲームをやめざる状況に陥れられることもある。
「それよりもどうしてあそこにいたんだ?あそこはセリアのような初心者が行くような階層じゃないぞ。」
俺には聞きたいことがあった。それは彼女があの階層にいた理由だ。どう考えても彼女の腕前と釣り合っている場所ではなかった。
「…そっ、それは…。」
「私が頼んだの。あそこでほしい素材があったからそろそろいいかなって思って頼んだのよ。だからセリアのことを責めないで。」
「…ハァ、わかったよ。」
セリアは急に乗り出したリンを見て驚いた様子だった。これを見ればリンがセリアのことをかばっているなど一目瞭然だ。俺は彼女に理由を聞きたかっただけなのだが責めているように見えたのかもしれない。
「じゃあそういことで。」
「ちょっと待ってください。」
「何?」
聞きたいことは聞き終わったので帰ろうとしたところまたもや声をかけられた。解せぬ。
「ほら、リンちゃん。」
どうやら用があるのはリンの方だった。
「あなたを私たちのパーティーメンバーに加えてあげるわ。光栄に思いなさい。」
決まったとでも言いたげな表情のリン。
「…じゃあな。」
そこで俺が出ていくのも必然だった。
「お願いします。待ってください。」
何やら後方から声が聞こえるが気のせいだろう。誰が初心者一名に良く分からない奴とパーティを組まなきゃならないんだ。誰もいないだろう。
「ストォーーップ。」
「いい加減しつこいな。」
店を後にしようとドアに手をかけた瞬間ドアと俺の間にセリアは滑り込んできた。背が小さい彼女だからこそなせる技なんだろう。
「リンちゃんのあれは言葉の綾なんです。お願いします、私たちとパーティを組んでください。」
「断る。」
言葉の綾だと?どうやったら言葉の綾であんなに上から目線で言えるんだよ。
「なっ。おい、離せ。」
「離しません。」
言葉ではだめということが分かったのだろう。なんとセリアは、俺の足にしがみついてきた。でもそんなことは俺には関係ないのでお構いなしに歩き続ける。
「お前もかよ。」
「私たちと組みなさい。後悔するわよ。」
「お願いします。私たちには、ユウさんが必要なんです。」
リンまでもがしがみついてきた。それにしてもリンの自信はどこから出てくるんだよ。俺にはそれが疑問だわ。
「知り合いに頼るか、ネットでも探せよ。」
「私リンちゃん以外友達いません。」
「ネット使えない…。」
「それはすまんかった。」
思わぬ闇を垣間見てしまったような気がした。それより――。
「重い、離せ。」
「嫌よ。」
「はいと言ってくれるまで離しません。」
周りの目がだんだんと痛くなってきた。俺じゃなくてこいつらが悪いんだって。というよりモンスタートレインよりもよっぽどこっちのほうが迷惑行為だよ。こういうのは追い払ってもしつこく迫ってくる可能性が高い。なら――。
「分かった。ちょっとだけパーティを組んでやる。俺にも俺のペースがあるからな、ついてこれなかったらほっとくぞ。」
「ほんとですか!?やったー。」
「ふん、私がいれば問題ないわよ。」
こういう時は、おとなしく引き受けてさっさと教えることを教えてある程度レベルを上げさせて逃げるべきだろう。そうしたほうが変に溝を作らずに済む。ただし――。
「あ、リンとは絶対に組まないからな。」
「な、何でよ!?」
その後セリアの必死の弁明もあって、渋々リンとも俺はパーティを組むことになってしまった。この時の俺の頭にあったのはどうやれば最も効率よくこいつらを鍛えれるかということだけだった。
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今週テストなんで週末まで投稿できない可能性が高いです。申し訳ございません。
あと一話で過去編は終わる予定です。
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