第31話 過去 2
「あっ、何であんなところいたのか聞くの忘れたな。」
俺は、先ほど出会った不思議な初心者らしき少女のことを思い出していた。先ほどの階層は、ゲーム初めてしばらくすると詰まりがちな階層だ。森という環境なために敵の察知も難しいし、索敵スキルもそれほど育ってないためにどうしても敵の発見が遅れてしまう。
そんな戦闘準備もおぼつかない状況へと飛び込んでくるのは先ほどのフォレストボアやフォレストラビットという敏捷性の高い敵だ。慣れないうちはなかなか苦労する。俺も何回も死んだ記憶がある。
それにたいしてあの子は、明らかに初心者と思えるような動作だった。どう見てもプレイヤースキルと階層がかみあっていなかった。
「まぁ、いいか。」
もう会うこともないはずの彼女のことはさておき俺は本来の目的地である第20層を目指すことにした。
◇◇◇
「…でねぇ。」
俺は先ほどから何度も同じモンスターを狩っていた。名前はマグマタートルと言って名前の通り溶岩を纏った亀だ。
俺が狙っているのはこいつの落とす甲羅だ。加工すれば暑さに対して耐性を持つ防具にもなるし、攻撃力の高い武器の派生にも役に立ったりとものすごく汎用性が高い。だがその分極めてドロップ率が悪かった。なんと8%。
いやいや高いほうでしょと思うかもしれない。俺もそう思う。だが世の中には物欲センサーと呼ばれるものがある。そのせいもあってかれこれ2時間ほどこの亀を倒し続けているのにもかかわらず落とさない。逆にほかの素材で手持ちの鞄があふれそうなくらいだ。
「疲れたし、今日はもう帰るか。」
最後に残っていた亀にとどめを刺し、案の定素材が出ないのを見て落胆する。さすがにもう今日は疲れたので戻ることにした。
「さてと…。」
ダンジョンから出てきたのでとりあえず素材を売り払いに行こうと考えていると――。
「見つけたあああ。」
「あ?」
どこかで聞き覚えのあるようなそんな叫び声とともにこっちに向かって走ってくる人物が二人いた。
「お前はあの時の。」
「セリアです。また会いましたね。赤髪のお兄さん。」
俺のスキンは、現実の長い髪を短く切った感じの髪型に少しだけ現実よりも身長を高くした感じだった。ちょうど今と同じぐらいだろうな。顔は特にいじってないはずだ。まぁ、ユウとほぼ一緒だ。
さっきのダンジョンで会った彼女――セリアは、ショートボブに小さめの身長が特徴で何だか庇護欲が掻き立てられそうな感じの少女だ。もう一人は、少しきつめの目に目立つ金髪が特徴的な少女だ。多分この場にいるということは彼女の友達かパーティメンバーと言ったところだろうか?
「俺は、ユウだ。ところで隣の彼女は?」
「私は、リンよ。今日はセリアを助けてくれてありがとう。そしてごめんなさい。」
彼女のきつそうな見た目とは裏腹に丁寧にこっちにお辞儀をしてきた。どうやらリンの方は、セリアがやった行為が迷惑行為だと気が付いていそうだ。怒ってはいないのだがきちんと謝罪してくれたのだ。一言くらいアドバイスはしておくべきだろう。
「そうか。モンスタートレインは人によってキレられる恐れがあるからネットモラルぐらいは調べておいたほうがいいぞ。じゃあな。」
「ちょ、ちょっと。」
「なんだ?」
謝罪の言葉ももらったしアドバイスもしたし、もう用はないのだが足早に去ろうとする俺をセリアが止めに来た。もう早く素材を売りはらってしまいたい。
「まだお礼が済んでないです。」
「いや俺は気にしてないから。」
お礼とかどうでもいいしな。助けたのだってたまたまだし。
「そこをなんとか。」
「いやだから…。」
「もう強情ね。セリアが言ってるのだからついてきなさい。」
「はぁ、少しだけだぞ。」
「やったぁ。」
周りの目もきつくなってきたのでおとなしくついていくことにした。こっちの気も知れずセリアは顔から見てわかるように上機嫌だった。早く解放してくれないかな?
*****
すいません、過去編はもうちょっと続きそうです。
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