第30話 過去 1
俺はゲームが好きだ。それは、アンリミが発売されるよりも前からのものだ。俺は昔別のゲームをやっていた。大好きだった。今でも当時のことは思い出せる。だがやめてしまったのだ。それにはもちろん訳がある――。
当時の俺は14歳。ちょうど3年前かな。俺がやっていたゲームは、ダンジョン攻略が目的のアクションRPGだ。ボスを倒して有名になったり、レア素材を目指してトレジャーハントするものやほかの誰にも作れないような武器や防具を作ろとするプレイヤーなど様々な人がいた。無論、友達と一緒にワイワイするためにやっているというプレイヤーもいただろう。というよりそっちのほうが多いだろう。
俺は当時からボッチ気質だったのもあってソロでやっていた。目的地に向かう為にとある森の階層を突っ切ろうとした時だ。
「ぎゃああああああ。」
遠くからものすごい悲鳴が聞こえてきたのだ。ただこれだけなら何も気にせずスルーしていただろう。あくまでこれはゲームだし死ぬことはない。経験不足だということを学んで次に生かすことができるのだから。
「ん?」
俺はソロなのでモンスターを探すのも倒すのも全て自分でこなさないといけない。そのために罠察知や気配察知と言った斥候向けのスキルを取得していた。そんな中、俺の気配察知スキルが危険信号を示してくるのだ。それも強烈に。
「な!?」
気配のする方向を警戒していると――。
「助けてくださーーい。」
先ほど悲鳴を上げた少女がこちらめがけて逃げ込んでくるのだ。背後には5体ほどのモンスターを引き連れていた。いわゆるモンスタートレインである。本来この行為はタブー扱いされているにもかかわらずするってことは、初心者なのだろうか?初心者がこの階層にいること自体信じられないのだが。
そんなことよりも――。
「離してくれないか?」
「お願いします。死にたくないんです。助けてください。」
隠れているはずの俺を見つけ出して彼女は俺の服の裾の部分をつかんでいた。その手には力が込められていて絶対に逃がさないという意思すら感じさせられる。このゲームにはマップ機能があり、マップにはプレイヤーの情報なども描かれる。そこから俺を見つけ出したのだろう。それにしてもなんでこんな面倒なことに…。
俺と彼女のステータス差を考えると彼女を放って逃げだすこともできるだろう。俺自身割と上位の方だと自負しているからな。だが彼女の顔を見るとそんな気は失せた。
ゲームであるはずなのに彼女はめちゃくちゃ顔を濡らしていて、現実だと今にも顔がはれそうな感じだ。こんな表情をする子がわざとモンスタートレインなんてするはずがないだろう。
「分かった、倒してやるから手を放せ。」
「ほんとですか?」
「あぁ。」
我ながらちょろい奴だと辟易する。目の前にいるのは、フォレストボアというイノシシ型のモンスター5匹で突進を得意とするモンスターで魔術師どもの天敵だ。
「《影縫い》。」
「グゥオ!?」
闇系のスキルで名前の通り影を縛り付ける。レベル差もあって俺のスキル発動にかかる時間はほぼない。そのためにいともたやすくイノシシどもの影を縛ることができた。これでイノシシどもは動けなくなる。イノシシどもは突如足が動けなくなったこの状況に困惑していた。
「《シャドウエッジ》。」
「かっこいいーーー。」
後はもう簡単だ。そこに闇系の攻撃スキルで華麗にイノシシどもにとどめを刺していく。だがこれは単体攻撃なのでこいつら全員に発動させないとだめだったのがちょっとダサかった。でも彼女の声を聞いて口角が少し上がってしまったのは仕方がないだろう。
フォレストボアたちを倒し終え、素材を回収し、周囲にほかのモンスターがいないことを確認する。ここでほかにもいた場合、距離によっては連戦になるからだ。今回の場合はいなくて助かった。さっきの戦いで無駄にスキルを使ったせいで魔力が結構削られていたからだ。
「すごいですね。私もあんなふうになりたいです。」
そんな感じに周囲の安全を確認した後、振り向いてみれば何やら彼女は感激していた。こんな風に人に純粋にほめられるという経験がなかったのもあってちょっと恥ずかしかったが満更でもなかった。
「でも闇系のスキルって微妙なんですよね?なんでとってるんですか?」
「グフッ。」
そう彼女の言う通り俺が使っていたのは闇系のスキル。これの欠点は影のある場所以外で使うと効力が落ちるというもの。光系のスキルは逆に影のある場所だと威力が落ちるのかと聞かれればそんなことはない。闇だけである。しかもめちゃくちゃ晴れた階層なども普通にこのゲームのダンジョンではあるので正直言って微妙視されていたのだ。
だが待ってほしい。当時の俺は中学二年生。闇とか漆黒とか左手がうずいたりそういう時期だったのだ。そういうのもあって興味を持ったのもある。実際めちゃくちゃエフェクトとかかっこよかったし。
「じゃあな。俺はこの先に行くから。」
「あ、ちょっと待ってくださーい。」
そんな内心をごまかしつつ、彼女の言葉を無視して俺はダンジョンを下って行った。
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