第29話 やらかした・・・
「外で集合ね。」
「おう。」
結局あのウォータスライダーを黒川と堪能した後、流れるプールを一周して俺たちはプールを後にすることにした。流石に疲労が半端なかったからだ。
俺たちが次に向かうのは、シャワー室だ。ここで冷えた体を温めるのと同時にお湯で体を洗う目的もある。プールの水には、塩素が入ってたり、いろんな人が入っていたりして結構汚れている可能性もあるからな。
そこはいくつかの個室になっていて、ここなら外から見えないので人の目を気にしないで済む。今日のことは一言で言えばめちゃくちゃ疲れた。でも楽しかった。冷えた体をシャワーで温めながらそんなことを思っていた。
お湯でぬれた髪をタオルでふき、軽くかき上げてさっぱりとした面持ちで個室を出る。今思えばこれが失態だった。
「おっ智也。お前も出たか、更衣室に行こうz…。」
そう言ったところで智也の様子がおかしいことに気が付いた。
「ユウ…なのか?」
「え?」
智也のつぶやきを聞き逃してしまった。だがそんな事お構いなしに智也は俺の腕を思いっきりつかみ、俺を個室に連れ込んできた。そこで俺の両肩に手を置き、壁に押し付けてくる。
「おい、智也。俺はノーマルだからこういうのはやめてほしいんだg」
「お前、ユウだろ?フィライトのギルドマスターさんよぉ。」
何でばれた?と思った。だがすぐに気が付いた。俺は、前髪をあげていた。そのせいで普段見えない顔がはっきりと見える状態になっていたんだろう。それに俺と智也の距離はほぼゼロ距離だ。そんなのすぐに確信を持たれても仕方がない。
「…。」
声こそ大きくなかった。その場でいいわけも考えようとした。それでも鬼気迫る表情ではっきりと断言する智也に俺は黙り込むしかなかった。
「沈黙は肯定と認めるぞ?」
彼の目は真剣でとてもその場で考えたような嘘ではこの場をしのげるとは思えなかったからだ。
「…そうだよ。俺がユウだよ。」
「そうか…。」
その言葉を聞いて智也は俺の肩から手を離した。だがその目つきは未だに目つきは鋭いまんまだ。
「どうして言ってくれなかったんだ?お前のことだから黒川の転校初日には気が付いたんじゃないか?それに俺と理恵がゲームで顔見せした時にも言えたはずだ。」
「それは…。」
そこで言葉が詰まってしまった。脳裏に昔の嫌な記憶がよぎる。だからなんだろう――。
「ゲームと現実は違う。」
逃げてしまった。本当はこんなことを言いたいんじゃないと思ってもどうにもならなかった。
「それがたとえ仲のいい友達だとしてもか?」
「そうだ。」
違うそうじゃない…。本当は…。
「…そうか。もういい。」
「ッ!?」
心底あきれたような目でこっちを見て、智也は去って行った。
「やっぱこうなるのか。」
智也のいない個室で一人ぼやく。俺は、どうすればよかったのだろうか?本当のことを言えばよかったのだろうか?俺には、わからない。
ただ――。
「遠い。」
過ぎ去る智也の背中が無性に遠く感じてしまった。
◇◇◇
「楽しかったねー。夏祭りとかも皆で行けるといいよねー。」
「それはちょっと無理かも。私用事あるの。」
紗帆ちゃんの提案はうれしかった。でも私には、やらないといけないことがある。
「それなら仕方ないね。」
精一杯明るく振舞おうとしていたがやはりどこか悲しそうな感じだった。でもこれだけは譲れなかった。
私は、悩んでいた。ユウくんと大城君の関係をどうすればいいのか。ゲーム内とはいえ彼氏、それに対して現実でも気になっている人。佐伯君と理恵ちゃんこそ言ってこないがはたから見れば私は最低な女なのかもしれない。
でもそれはやめる。ちょうどの今の時期なら大学生でも夏休みだ。今ならきっとユウくんとも面と向かって話ができるはずだ。そこで自分の気持ちを理解してしっかりと話を付ける――そう考えていると二人がやってきた。
「え?」
そんな声が私の口から出てきてしまったのも仕方がないと思う。なんせあんなに仲の良かった二人の距離が空いていたのだから。
(何があったの?)
(わかんない。)
そんな感じのアイコンタクトを理恵ちゃんとかわすが彼女も困惑していた。そんな重苦しい雰囲気の中私たちは駅まで向かった。
「じゃあねー。」
「ばいばーい。」
「…。」
「またな。」
二人の表情は最後まで暗かった。佐伯君は、大城君に目すら合わせようとしなかった。何だが嫌な雰囲気だなぁとそんなことを考えていた。
いやな予感とは言うのは、よく当たる。その日から1週間、ユウくんがログインすることはなかった。
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