第28話 絶叫
「もっかい、もう一回行こうよ!」
「お、おう。」
黒川のあまりの剣幕に俺は、押されていた。
黒川は、最初こそビビっていたもののめちゃくちゃウォータースライダーにハマってしまった。そのせいか今は、みんなで昼飯を食って一息ついたところだったのだが真っ先に黒川がウォータースライダーに行きたいと言い出したのだ。いやまぁ、それだけならいいのだが…。
「俺はパスで。」
「私もちょっと休みたい。」
かれこれもう10回目だ。流石にここまでウォータースライダーに何回も乗っていると限界がやってくる。現に智也と石崎はダウンしている。俺も結構ウォータースライダー好きを自負していたが黒川にはかなわない。というよりもすでにきつい。だが――。
(こんな顔されたらいかないわけにいかねぇよ。)
彼女は、年相応にはしゃいでいた。学校での普段の姿とはとてもかけ離れていると言ってもいいほどだ。この4人でいる時だけは気を抜いてくれているのかなとも思う。ここで俺まで行かなければ彼女は遠慮してやめてしまうような気がする。そこまで気を使わせたくない。
階段を上ってウォータースライダーの入り口まで行くと少し違和感を感じた。今まで向かっていた場所と微妙に違うのだ。でも黒川は、迷いなく進んでいるので何も言わずについていく。すると見えてきたのは――。
(まじかよ。)
二人用のウォータースライダーだった。するとくるりとこちらの方を黒川が向いた。
「せっかくだからこれにも乗ってみたいんだけどどうかな?」
「いや、流石にちょっ…!?」
殺意のようなものを感じた。殺意の元をたどればプールのスタッフからの物だった。まるでさっさと決めろよこのヘタレとでも言いたいかのような視線だ。
「あぁ、いいよ。」
「よかったー。」
花のように笑う黒川の笑顔は、やばかった。思わず見惚れてしまうほどだった。だが残念ながら強烈な殺意のこもったスタッフからの視線のせいで思わず顔をそらしてしまった。もったいない…。
ついに俺たちの順番が来た。
「説明しますね。カップルの方が利用する際には、まず女性の方が前に乗っていただいてその後に男性の方が女性のお腹あたりに手を回すようにして乗ってください。」
俺は無言でスタッフをにらんだ。明らかに悪意しかこもってないセリフだったし、今もやれるもんならやってみろとでも言いたげな表情をしていた。無茶苦茶腹が立つ。
「すいません、俺たちそういう関係ではないんで。」
「そうですか…では男女の方が乗る場合先ほどのように乗ってください。」
こいつマジでぶん殴りたい。が黒川がいる手前そんなことができるわけもない。どうしようかと考えていると…。
「大城君、私は気にしないからさ乗らない?」
まじで言ってんの?いや、これ以上ほかの客に迷惑をかけるわけにもいかないのでさっさと終わらせよう。
黒川もそれを望んでるはずだ。
「分かった。」
俺たちが乗るのは、専用の浮き輪だ。二人乗りの小さなボートと言ってもいいかもしれない。
「んっ。」
黒川の後ろに座り、そっとそのお腹に手を回す。なんだか黒川が艶めかしい声を出したような気がするがそれどころではない。ウォータースライダーということもあって黒川はラッシュガードを脱いでしまっている。そのせいもあって俺は黒川の肌に直接触れていた。
すべすべの柔らかい女性特有の肌にふんわりと濡れた黒川の髪が俺に触れてこそばゆい。ものすごくやばいことをしているような背徳感さえ感じてしまった。
「それではいってらっしゃーい。」
「「!?」」
何の前触れもなく、スタッフはいきなり浮き輪を押して発射させた。それもめちゃくちゃ勢いよく。
「気持ちいいーー!!」
「ふざけんじゃねえええええ」
めちゃくちゃ楽しそうな黒川と比べて俺は絶叫していた。なんせ全く心の準備ができていなかった。あのスタッフだけは許さないとそう心に誓っておいた。
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