第27話 プール
学校のプールでは必ず入る前にウォーミングアップをする。だがプールに遊びに来る学生の中でプール前に準備運動する人なんてほとんどいないんじゃなかろうか?なおもちろんのことだが俺たちも準備運動をすることはなかった。
初めに入るのは、流れるプールだ。リニューアルしてこのプールの距離もかなり伸びた。その上にルートの途中に滝っぽい仕掛けができた。とは言えそこに行って滝行するという予定はないので本日はスルーだ。人が多いのもあって少しでも目を離せばみんなとはぐれてしまいそうだ。だが俺にその心配はない。なぜなら――。
「きゃっ、やめてよ理恵ちゃん。」
「ふふん、やられるほうが悪いのだー。」
黒川と石崎がはしゃいでいた。美少女が互いに水をかけ合う姿は、とても絵になる。俺は、浮き輪に浮かびながらそんなことを考えていた。流れるプールなので何もしなくても彼女たちの晴れ姿を追いかけることができる。なんか俺変態みたいな思考になっているような…。
それにしても智也はどこに行った?あいつならこんな絶景逃すはずがないのに。
「ここだよ。」
「うぉっ。」
俺の心の中を呼んでいるかのように智也は言葉を返してきた。いつの間にか背後に回っていた智也が俺を浮き輪をひっくり返した。その反動で俺も見事に水にドボンと落とされる。
「何すんだよ…。」
「いやぁ、浮き輪に乗っているやつを見るとどうしても落としたくなってな。」
よくもいけしゃあしゃあとそんなことが言えるな。あぁ、せっかくの絶景が。
「それにしても何を熱心に見ることがあったんだ?」
「そんなの…」
そこまで言おうとして言葉に詰まる。それ以上は言えなかったからだ。
「そんなの?」
「なんでもねえよ。」
かなり苦しい回答だ。それを聞いてか智也もなんだがいい笑顔をしている。これは悪いことを考えている時の顔だ。なんか嫌な予感がする。
「そうかー、雄大にもついに春が来たか。理恵には手を出すなよ。」
「出すわけねえだろ。」
こいつの彼女になんか手を出すわけなんてないだろ。
「てか黒川も違う。」
「そうかそうか…そういうことにしてやるよ。」
「勘違いしてる!」
これは速やかに誤解を解かないとほんとに面倒な目にあいそうだ。いや、誤解じゃないのがたちが悪いが…。こればっかりはやばい。
「とりあえず俺はこれを理恵に伝えてくるから。」
急に反転して石崎と黒川の方へ智也が泳ぎだす。
「待て…この野郎!」
俺はそれを全力で追いかける。だが悲しいことに普段から運動してるやつを俺みたいな帰宅部に追い付けるわけがない。絶妙に追いつけそうで追いつけないラインの速度を維持されたために死ぬほど泳がされた。もうしばらくは泳ぎたくない。
◇◇◇
「ウォータスライダーにでもそろそろ行くか。」
「いいね。」
智也の提案に石崎が飛びつく。俺はと言えばすぐそこで息を切らせている。智也のせいだ。
「大丈夫かな?」
黒川だけは不安そうだ。この前乗ったことないって言ってたしな。
「うーん、それなら待っておく?幸いおっし―も疲れてるわけだし。」
「石崎…ハァ…俺はウォータースライダーに…行くぞ。」
「お、おう。」
なぜだがちょっと引かれてしまった。智也もちょっと引き気味な顔をしていた。失敬な。俺はまだまだいけるぞ。
「それなら私も乗るよ。みんなの乗るみたいだし。」
黒川もどうやら乗る気になったようだ。ウォータースライダー独特のこの快感はやらないと味わえないからな。
「でもちょっと休憩しようか。」
黒川がこっちをちらりと見ながらそう言った。ほんとにすいません。すべて智也が悪いんです。
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