第23話 親バカ襲来
「じゃあ、私お茶持ってくるね。」
話が終わったのかしばらくすると黒川親子が戻ってきた。とは言っても黒川はお茶を取りに行ってしまわれたので実質的に黒川のお母さんとの1対1なのだが。
「ありがとね。」
「え?」
唐突に言われたお礼に俺は困惑せざるを得なかった。
「あの子って親びいきかもしれないけど可愛いでしょ?そのせいでいろいろと面倒ごとがあったのよ。」
それは、俺にもわかる。実際学校にきてからすぐに男どもから狙われてたし、そのせいで男子とは全員距離をとっているって感じだった。
「だからねあの子が男の子の友達ができたって言ってきたときにずいぶん驚いたのよ。」
その時の黒川のお母さんの表情は、とてもうれしそうだった。こういう年ごろの娘に男が近づいたらたいてい親は嫌な顔をすると思うのだけれど。
「だってあの子にもついに春が来たようだしね~。」
「いや全然そんな関係じゃないんで安心してください。」
前言撤回だ。この人ただ楽しんでやがる。
「ふぅーん、そういうことね。これは紗帆も苦労しそうだわ。」
何やら意味深げに笑う黒川のお母さん。大人の色気というのだろうか?その妖艶さあふれる笑顔に思わず見惚れそうになった。
「ちょっとお母さん。大城君と何話していたのよ?」
「んー?ただの世間話よー。ね?大城君。」
「はい、そうです。」
なんだかダルそうな感じに返す黒川のお母さんだが目は笑っていなかった。おそらくさっきのことは言うなということだろう。娘思いのいい母親だと単純に言いきれないのがなんか悔しい。
「とりあえずお母さんは奥に行ってて。」
「はいはーい。」
黒川がぐいぐいと自分の母親を押しのけていく。そんなに見られたくない何かでもあるのだろうか?
「まぁ、うちに呼んだのはお母さんの頼みだったんだけど…。」
言われてなんとなく納得した。あの人は何かつかみどころがないというかこちらの心まで見透かされているような気分になる。多分、連れてきた子が娘に害を与えないかを見定めるためだったんだろう。俺は何とかなったみたいだったけど。
「私からも一つ頼みごとがあってね…。」
人差し指をつんつんさせながら目をそらす黒川。わずかに頬が赤くなっているところとかめちゃくちゃかわいいのだが頑張って顔に出さないようにした。
「料理を教えてほしいの。」
「ほ?」
料理?
「お母さんに教わるのじゃダメなのか?」
率直に思ったことを言ったもののあまり表情がよろしくない。
「私ってばお母さんにいっつも迷惑かけてきたからあまりお母さんの手を煩わせたくないんだよね。それにこの前のお弁当だって無理してお母さんに頼んで料理を教わってたし。」
言われて初めて気づいた。人の家庭内事情に俺が突っ込むわけにはいかないが色々と黒川も考えているんだろう。それに黒川のお母さんも社会人だから忙しいだろう。そうなると部活も何もやってない俺という存在は実に都合がいい…ような気がする。
「でも俺の料理の腕なんて普通だぞ?それでいいのか?」
「うん。もちろん……大城君とできればそれでいいし(ボソッ)」
部屋の奥隅にいた黒川のお母さんにさりげなく目を向ければ笑顔でサムズアップしていた。あの人の耳どんだけいいんだろう…。
「分かったよ。俺でいいなら教えるよ。」
「ありがとっ、大城君。」
「ッ!?」
不意打ちは反則だろ…。いきなりの満面の笑みを向けてくる黒川に心の中で思わず悪態をつく。そんな中――。
「ただいま。」
玄関の方から一人の男性の声が聞こえた。
「お帰り、お父さん。」
「お邪魔しています。」
黒のスーツをビシッと着た黒川のお父さんがいた。いかにも真面目そうな人という印象を受けるが鍛えているのかスーツの上からでもがっしりとしている体つきであることが分かった。
「ただいま紗帆。そして君っ。」
黒川パパは俺にビシッと指を向けてきた。何をする気だ――。
「娘はやらないからな!」
「は?」
気難しそうな黒川パパはどうやら相当な親バカであるようだ。
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