第21話 おうちに招待


いつものように学校にきて、読書をしていた。しばらくするとこちらに近づいてくる音が聞こえたので顔をあげてみればそこには、意外な人物がいた。


「おい。」


「なんだ?」


話しかけてきたのは、上岡隆二。短くそろえられた金髪に少し目つきが特徴的なやつでうちのサッカー部のエースだ。智也とはまた違ったグループを形成しており、サッカー部のエースってこともありかなり女子からモテる。そんな奴が一体俺になんのようだ。


「おまえさぁ、調子に乗るんじゃねえぞ。」


「は?」


俺が調子に乗っているだって?何のことだ。


「紗帆と仲良くしているようだけどあれはただの紗帆からの慈悲だからな?そこんとこ勘違いすんじゃねえぞ?」


「…あぁ、わかってる。」


どうやら昨日のことでかなり根に持っているようだ。それならそれで何かしらのアプローチをしかければいいのにとも思うが…おそらく拒否されたんだろう。それにしても慈悲ってなんだよ。もうちょっとうまく言えば言えないのか?


そんな心の中の俺の愚痴が上岡に通じるわけもなく、上岡は話し続ける。


「お前と黒川では文字通り住む世界が違うんだ。これ以上、紗帆に迷惑かけんじゃねえぞ?」


「はぁ。」


そのままそそくさと上岡は離れていった。住む世界が違うというのは良く分かる。やっぱり俺と関わることで迷惑をかけているのかもしれない。昨日の出来事の翌日からこの調子なことに俺は心底辟易した。


◇◇◇


「ねぇ、大丈夫?」


「えっと何が?」


休み時間唐突に黒川が話しかけてきた。ひょっとして朝のこと聞かれていたとか?


「今日ちょっとあまり調子がよくなさそうだから何かあったのかなって。」


すごいな黒川。俺めちゃくちゃ平静を装っていたのにばれるなんて。


「朝ちょっと嫌な出来事があっただけだから黒川は気にしなくていいよ。」


「そう?ならいいけど。困ったことがあればいつでも頼ってね。」


くっ、黒川の笑顔がまぶしすぎる。こんなに気遣ってもらうことなんて初めてだぞ。しかも相手が黒川だ。それだけで朝のことなんて吹き飛んだよ。もう天使かと思うほどだよ。さっきから突き刺さる上岡の視線が痛いけれども。


といつもならここで会話は途切れるはずなのだが。何やら黒川が言いたげな感じの顔をしている。ここは助け舟を出すべきだろう。


「えっと黒川何かあるのか?」


「えっ?あっ、えーと、あわわわ。」


やばい失敗した。思いっきりてんぱってしまっている。


「落ち着け。ゆっくりでいいからさ。」


俺の声を聞いてひっひっふーと声を整える黒川。なんでそこでラマーズ法を使ったのかは知らないが落ち着いたのならいいだろう。


「こほん。あのですね。」


「お、おう。」


背筋をぴっしと正し、いつもよりも丁寧な口調の黒川のせいか思わず俺にも緊張が走る。

そんな中黒川の口から出てきた一言は衝撃的なものだった。


「うちにきませんか?」


「は?」


意味が分からなかった。うちに来る?黒川の家に行くってことか?

え、俺が?なんで。


「えっと、どうして?」


「この前お父さんが家に帰ってきて、学校の話をしたんだけど。それで大城君の話をしたんだ。」


あ、なんか俺嫌な予感がするぞ。


「そしたらお父さんが連れてきなさいって言ってきて、お母さんもなんだがうきうきしちゃってて私は止められなくて。」


これはアレなのか?娘が欲しければ俺を倒していけとかそういうやつなのでは?俺全然そんなつもりないけど。いや、現実でも黒川とは付き合いたいと思っているけどもさすがに身の程はわきまえてますよ。


「ということでうちにきてくれないかな?迷惑だったらいいんだけど。」


さてここまでの話を聞いて障害となるのは、おそらく彼女の父親だ。急いで誤解を解かなければならないのだろう。だがそれさえすれば何も問題はない。そのうえで黒川の家を訪れるかどうか。うん、答えは決まった――。


「わかった、いいよ。」


やはり好きな女の子であるには違いないのだ。そうでなければゲーム内で付き合ったりはしない。うやはり彼女の家というものがどういうものなのかはすごく気になる。


「良かったー。じゃあ、放課後待っててね。」


「・・・おう。」


あれひょっとして今日何ですか?俺まだ何の心の準備もできてないんだけど。

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