第20話 敗北者…?

やってきてしまった。智也に抵抗することもできずいつの間にか中庭に到着していた。



中庭からはあちこち視線が飛んでくる。大半が好奇の視線と疑問を含んだ視線だった。大方、何でここにモブがいるんだろうということであろう。正直、目立つのはあまり好きじゃないので勘弁してほしい。


「智君、おっしーこっちこっちー!!」


俺たちを発見したのか大声をあげてこちらに声をかけながら手を振る石崎。なぜかおっし―と呼んだ瞬間周りの目がきつくなった気がする。石崎の横には、黒川もいた。なぜか知らないがすごくそわそわしていて挙動不審だ。まぁ、その仕草さえかわいいと思ってしまっている自分にドン引きだが。


『ねぇ、あの人誰?』


『いくらお金払ったんだ?』


そんな声が聞こえてくるような気がする。普段の中庭と違ってずいぶんとみられているような気がする。校舎の方からの視線も多い。あの黒川が中庭にいるからかもな。


とりあえず二人と向かい合うように椅子に座った。それにしても視線とか気にならないんだろうか。3人ともケロッとしている。びくびくしているのが俺だけという事実に驚愕せざるを得ない。


「それで要件って何なんだ?」


俺は、ここで今までずっと疑問に思っていたことを口に出す。智也に聞いても「行けばわかる」とか「落ち着け」とか言ってきて話にならなかったのだ。それと早くとり飯が食いたい。


「紗帆ちゃん、早く。」


「わ、わかってるって。」


石崎が何やら黒川を励ましている。何だ?何をする気だ。


「これを受け取ってください。」


「え?」


黒川が出してきたのは、一つのお弁当箱だった。まさかこれを食べてほしいってこと?


「なんで。」


「それは、この前のお礼をしたかったからだよ。」


「この前?」


黒川の言葉の意味を思い出そうとする。でもこの前のお礼と言われても思い当たる節がない。


「ほらあれだよ。この前のカr」


「やめろっ。」


「むぐっ。」


それ以上は言っていけないので慌てて黒川の口を手でふさぐ。言われて思い出した。カレーね、そういえばごちそうしたな。そこまで気にしなくてもいいのに。


とここであることに気が付いた。


「す、すまん。」


すぐさま黒川の口を防いでいた手を放す。心なしか何だが男どもの目つきが鋭くなっているような気がする。おかしいな俺の学校生活は何事も起きることなく平穏に終わるはずだったのに。


もっとも今の状況の時点で俺の平穏な学生生活は終わってしまったのは、明白だ。これにさらに自宅に黒川を連れ込んでしまったことがばれればどうなるか想像もできない。もともと智也と石崎と関わりだした時点で遅かったかもだが。


「いや、こっちが軽率だったね。ごめんね。」


「黒川は気にしなくていいよ。」


ホット安堵したのもつかの間、石崎と智也を見れば――。


「「ニヤニヤ。」」


くそうざかったが否定のしようもないので弁当の方に意識をそらす。黒川は、料理ができないと言っていた。それでも作ってきたということはある程度形になったということだろう。

弁当を開けてみれば少し焦げ目のついたハンバーグにいびつな形のタコさんウインナー、そしてちょっと形の崩れている卵が目に入った。


「いただきます。」


ハンバーグを一口噛んで2段になっていた弁当の下の段に入っていたご飯と一緒に咀嚼する。見た目は少し残念だったが味はしっかりとしていて十分においしかった。これだけで彼女は、この日のために頑張ってきたのが分かる。この前確か料理できないって言ってたし。


「ど、どう?」


不安そうな表情でこっちを見つめてくる黒川。やはり不安なのだろうか。


「おいしいよ。」


「よかったー。」


それにしてもクロじゃなくて黒川が俺のために弁当を作ってくれるなんて俺明日大丈夫なんかね?男どもの視線がすさまじいぞ。


「お前たちも早く食え。見世物じゃないんだぞ!」


箸が止まっている石崎と智也をにらみつけるが全く効果がない。


「なぁ、夏休みはどうする?」


「個人的に海は嫌なんだよねぇ。しょっぱいのが嫌だし。」


え?この流れで夏休みの話に入るのか?リア充の考えていることは分かんねぇや。


「なぁ、二人はどう思う?」


おーい。なんでそこに智也はこっちに話を振るんだよ。こんなに人がいるところで話せるわけねえじゃないか。


「私は、プールがいいかな。それなら理恵ちゃんも楽しめると思うし。」


「さすが紗帆ちゃん分かってるね。」


「雄大は?」


なんか勝手に話が進んでいるんだけど。俺に話を振るなよ…。


「俺はいいよ。みんなで楽しんできなよ。」


この前こそ一緒に行ったがこのメンツと一緒に俺が遊ぶ度胸なんてあるわけがない。


「来ないの?」


めちゃくちゃ上目遣いでこちらを見る黒川がいた。俺には効かんぞその攻撃。いやでも今にもウルウルしそうだし。うぐぐぐぐぐ…。俺も男だ。ここは潔く負けを認めよう。


「分かった。いくよ。」


「やったー。ありがとう、大城君。」


その満面の笑みは反則だろ。不覚にもドキッとしてしまった。めちゃくちゃ鼓動が早くなっている気がする。これはばれないようにしないと。


それにしても俺が行くだけでそんなに楽しいのか?こっちとしては、彼女の水着が見れるという最高の役得感があるけども。


「まぁ、たのしもうぜ。なんかあったらどうにかしてやるよ。」


「助かる。」


こういう時の智也はすごく役に立つ。こういう時だけはだが…。


結果として俺は、またこのメンツで遊びに行くことが決まってしまった。楽しくなりそうな半面また厄介ごとのにおいがする。


一つだけ言えるのは、とり飯より100倍黒川の弁当は美味しかった。


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