第15話 お昼ご飯

「でどうすんだ?」


やはりお昼時となると人が多い。例によってフードコートにも人があふれかえっている。こりゃ空いてる席を見つけるのに苦労しそうだ。


「俺と雄大で買ってくるから空いてる席探してもらえるか?」


気の利いたこと言うなぁと思いながらも俺としては、何も反論することなどないのでおとなしく黙っておく。


「じゃあ、私はマックでいつも食べてるやつで。」


「私は、何でもいいから任せる。」


「おっけー。行くぞ雄大。」


「おう。」


マックというのは、某有名ファストフード店の略称だ。それにしてもいつもので通じるあたりがすごいよな。ちょっとだけあこがれるかもしれない。


とりあえず俺と智也で列に並んで待つことにした。列と言ってもすぐに商品が出てくるので5分も待てば注文の出番がやってくる。


「智也は何にするんだ?」


「ん?クリスプバーガーにポテトLだな。それにシェイクでもつければ俺は満足。」


一枚のクーポンを俺に見せびらかせながら智也は語った。クーポンありと無しでポテトLは値段が倍近く変わる。正直割とあれだと思う。そんな値段でも利益とれるなら普段からそうしてほしいと思う。


「でどうするんだ?」


「ん?俺は、ダブルチーズバーガーのセットにでもしようかと。それに加えて…。」


「そうじゃなくて黒川のだ。」


どうやら俺のメニューなどどうでもよかったらしい。ジュースを凍りぬきにして量を増やしてもらうというずるい技の解説までしたかったのだが。


「まぁ、たぶんダブルチーズバーガーでいいでしょ。あれ人気だし。」


「それもそうだな。」


「次の方―。」


「店内でダブルチーズバーガーセットを2つとポテトLに…。」


とりあえず順番が来たので智也に丸投げする。正直俺が口挟んでも良く分からなくなる気がする。


◇◇◇


「あっちだそうだ。」


商品を受け取った俺たちは、二人の居場所を探す。幸い智也の方に連絡が行っているようなので迷う心配はないだろう。


「こっちこっちー。」


「ちょっと理恵ちゃん、もう少しボリュームを。」


石崎が手を振っている。隣では周りの目が恥ずかしいのか黒川が必死で石崎を抑え込もうとしていた。そのせいか、かえって周りから注目されている気がする。ご愁傷さまです。


「お待たせ。ちゃんと席とってくれてさんきゅー。」


「えへへ。どういたしまして。」


とりあえず隣でなんかいちゃつきだしたんで黒川に意識を向ける。


「とりあえずダブルチーズバーガーにしてみたんだがこれでよかったか?」


「大丈夫。私これ好きだし。」


「そうか、良かった。」


ひとまず安心した。これで黒川が嫌そうな表情をしていたら罪悪感でいっぱいになっていただろう。


「うめぇ。」


いつの間にか智也がポテトをバクバク食べているではないか。俺も早く冷める前に食べよう。


「あっ。」


「どうしたの紗帆ちゃん?」


俺がチーズバーガーを一口かじれば何かに気づいたかのように声をあげた黒川。それに気づいた石崎も心配そうな目で黒川を見つめている。


「ピクルス抜くの忘れちゃった。どうしよう。」


「…。」


割としょうもなかった。それなら手で直接引っこ抜けばいいんじゃないか?まぁ、俺もぴくる抜いてるんで何とも言えないですけど。


「そう言えば雄大、お前ピクルス抜きだよな?それと交換したらどうだ?」


「はぁ!?」


何言ってんだこいつは思ってしまった。いや、恋人でもない人が一口かじったバーガーなんて食いたくないだろ。


「いやなのか?」


「いや、別にいいけどさ…。」


「じゃあ、お願いできるかな?」


「おう。」


結局、ほぼ自然に交換されてしまった。それにしても間接キスとか気にならないんだろうか?俺の場合めちゃくちゃ気になって挙動不審になるオチしか見えない。


まぁ、相手が気にしないなら俺も気にしないでおこう。


「お昼からどうする?」


「やるとしてもカラオケか?」


「すまん、カラオケは無理だ。俺が音痴過ぎる。」


カラオケだけは無理だ。昔一人で行った時にものすごく点が低くて萎えまくっていたのを覚えている。それ以来カラオケに言った記憶はない。誰かと一緒に行ったらそれこそ不登校になるかもしれない。


「それならボウリングとかどう?これならみんな楽しめると思うし。」


「いいね。」


黒川の提案に真っ先に反応したのが石崎だった。そんなにボウリング好きなのか?


「俺もいいぞ。」


「俺も大丈夫だ。」


ボウリングなら問題ない。と言ってもそこそこレベルなだけだが。


「ならお昼からはボウリングということで智君それちょっと頂戴。」


「ほい。」


「おいしい。はい、私のもあーん。」


目の前で急に石崎が智也にそれをくれといったと思えばクリスプバーガーを差し出す智也。それをごくごく自然に食べる石崎。こいつら周りの目が見えないのか?何人かの男性陣が血走ったかのような目でこっちを見てるんだけど。


「…。」


気まずい。めちゃくちゃ気まずい。黒川が黙ってうつむいてしまった。俺にこの空気をどうしろと。

あっ、黒川が顔上げ…え?


「あ、あーん。」


恥ずかしそうに顔を赤くしながらも一本のポテトをこちらに差し出す黒川。思わず俺は硬直する。


「あーん。」


やめる気はないんですかそうですか。正直、このまま放置しておきたいが彼女がなんだか不憫に見えるのでここは勇気を出そう。


「あ、あーん。」


やべぇ。超恥ずかしい。ただのモブが美少女にポテト食わされてるなんて誰が想像できるだろうか?


「お、おいしい?」


「うまかった。」


嘘です。何も味分かりませんでした。


「おい、早くやってあげろよ。あれは期待のまなざしだぞ。」


「まじかよ。」


隣で小声で智也が助言を挟んできた。嘘だろと言いたかったが黒川の目が強烈に何かを訴えてきているのだけは分かった。


「あーん。」


「あむっ。」


「うおっ。」


智也の言う通りポテトを差し出せば勢いよく食いついてくる黒川。普通にびっくりしたんだけど。その表情は、すごく緩みきっている。あ、これ見たらいけない奴だと直感的に判断した俺は、あまりのポテトをバクバク食うことで気を紛らわせる。


「雄大やるな。」


「おっしー、すごいね。」


「黙れ。」


ニヤニヤと笑う智也、石崎の顔を殴ってやろうかと思ったがその怒りは、ボウリングにぶつけようと誓い俺は黙々と食を進めた。

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