第14話 服選び

「智くんどう?」


先に出てきたのは、石崎だった。さて智也を貴様は一体どういう風にほめるんだ?


「あぁ。Tシャツにプリントされたその花とか理恵のイメージにぴったりですごくかわいいよ。」


石崎の今の装いは、一枚のプリントTシャツにショートパンツ。ものすごくスポーティな感じの服装だがすごく似合ってると思う。


「ありがとっ。」


それにしてもあんな風にほめるのとか俺無理なんだけど。どうしてあんなに堂々とかわいいとか言えるんだ?これが彼女を持つものの実力か。てかあいつ絶対ほめるのに苦労してないだろうと――。そう考えていたところでカーテンがめくられる音がした。どうやら黒川も試着が終わったようだ。


「大城くんどうかな?」


「めちゃくちゃかわいい。」


「えっ?」


「あっ。」


彼女が試着しているのは、薄紫色のワンピースだった。正直予想もしていなかったその可愛さについさきほどまで考えていたことが吹き飛んでしまった。それにしてもなんで馬鹿正直に言ってんだろ。イケメンでもないしな俺。


「ッ!!」


勢いよくしめられるカーテンの音。正直やってしまったと思う。見惚れてしまったとは言え、俺なんかに可愛いと馬鹿正直に言われてもうれしくないだろう。イケメンでもなければ、彼氏ってわけでもないし。そのせいだろうか視界の端でニヤニヤしている石崎と智也の姿に俺は気が付かなかった。


◇◇◇


(あ~もうばかぁ~。)


私は、試着室の中でうなだれていた。なんたって褒められたのにもかかわらず返事もせずに勢いよくカーテンを閉めてしまったからだ。


(でもうれしかった。)


私がカーテンを閉めたのは単純にうれしすぎるあまりなんて返事を返したらいいのか分からなかったのと恥ずかしかったからだ。未だに胸の鼓動も収まらない。


大城雄大君。見た目はあまりかっこいいというわけでもなく、どちらかというと地味目な男子。でも私の勘が髪と眼鏡をどうにかすればかっこよくなると告げている…気がする。


私は、自分で言うのもなんだが容姿は整っていると思う。実際問題、前の学校をやめたのだって色恋沙汰が原因だからだ。男子はよく私のことを下卑た視線で見てくる。胸とかお尻とかは特にそんな気がする。実際転校初日もそんなんだった。


でも彼は違った。なんというか周りに興味がないのか授業がなければほとんど寝ているし、学校が終わればすぐに帰るような人。スーパーで私に会っても特に興味もなさげの顔をしているしそれどころか料理のできない私のために料理をふるってくれた。すごくいい人だと思う。


今朝にいたっても良く分からない人たちに絡まれている時に助けてくれた。正直、彼氏かよと言われたときは、ドキッとした。


私の彼に抱いている気持ちはまだ良く分かってはない。でも彼のことが気になっていることだけは事実だ。




あらかた服選びが終わった頃、時刻はお昼前となっていた。


「智也、お前全然褒めるのいけるじゃないか。」


「まぁ、そこは経験だな。それよりも雄大の方こそすごいじゃないか。黒川も喜んでいたはずだぞ。」


俺が結構疲れ気味なのに対してケロッとしている智也。やっぱり経験値が違う。


「忘れろ。」


智也が言うのは、俺が堂々と可愛いと言ってしまったあの時のことだ。正直、あれ以降なんだがすごく黒川との距離感が分かりづらくなっている。正直、やらかした感でいっぱいだ。


「はいはい。それよりも来たぞ。」


「お待たせ。」


「お待たせです。」


袋で両手を埋めた二人がやってきた。とりあえずここはどっちかの袋を持つべきだろう。俺なんも持ってないし。


「持つよ、黒川。」


「ありがとう。」


小声でお礼を言われた。さっきまでぎくしゃくしてたけどこれならなんとかなりそうだな。


「やるな雄大。俺も持つから、理恵。」


「ん。さんきゅー。それお昼どうする?」


そうだ。もう昼前の時間だ。ここで解散するなら別に気にしなくていいがとてもそうには思えない。今のところは苦ではないからいいんだけども。服屋はもう勘弁だけど。


「ならフードコートはどう?あそこなら色々食べられるけど。」


「おっ、いいな。」


俺たちがいるショッピングモールには飲食店もいっぱいあるが3階には、フードコートがある。みんなの好みも良く分かってないし、選択肢としてはありだろう。


「なら反対意見もないみたいだし、行こっか。」


「フードコートはあっちだぞ。」


「ごめんごめん。」


こういうやり取りをするとやっぱり石崎はエリーなんだと思うことが多々ある。彼女は、場を盛り上がらせるのが上手で正直いるだけで場の雰囲気が柔らかくなる。


パッと見ただけでは気が付かないが彼女の観察眼は鋭く、少しでも何か異常があれば見抜いてしまうし、それゆえに気遣いも相当できる。俺には、とても無理なので俺は彼女のことをとても尊敬している。


「あっ、おっしー。荷物持ちだからこれもお願いねっ。」


「…。」


さらっと渡されるもう一つの買い物袋。やっぱり彼女のことなんか尊敬しなくてもよさそうだ、うん。

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