第13話 荷物持ち
「はぁ、どうしてこんなことに。」
今俺は、駅の片隅で棒立ちしている。人を待っているからだ。俺は、テストで負けてしまった。そのためにこうして休日にも関わらず外へと駆り出されているわけだ。
(こうなるんだったらおとなしく合計点数で勝負するんだった。)
黒川がまさか100点をとってくるとは俺も想定外だった。まぁ、仕方ない。次からは気を付けよう。
(ん?あれは。)
よく見れば黒川がいた。だがチャラそうな男どもに絡まれていた。俺は、仕方なく黒川の方へ足を運んだ。
「なぁ、嬢ちゃん。俺たちと遊ばねえか?」
「そうだよ。きっと楽しいぜ。」
「私、人を待っているんで結構です。」
「そんな固いこと言わずにさぁ。」
男たちが何を言ってるかわからないが黒川が嫌がっているのだけは表情から良く分かる。ここは、俺の雀の涙ほどの勇気を出す場面だろう。
「彼女は、俺の連れだ。ナンパならどっか別のところでやって来い。」
「なんだおめぇ?」
思わず変な声が出そうになるがここは我慢。女の子にかっこ悪いところは見せられない。
「大城君。」
心配そうな声色の黒川。でもその服の袖をつかむのは、やめてもらっていいですかね。ちょっと精神が持ちません。
「ちっ、彼氏持ちかよ。」
「そんな地味な男よりも俺たちのほうが絶対楽しいのにな。」
めちゃくちゃ毒を吐いて男たちは去っていった。どうせ荷物持ちなんで構いませんよーだ。
「大城君、ありがとう。」
「あんな奴ら大したこと…。」
俺は、思わず絶句してしまった。振り向いてみれば黒川から向けられる満面の笑み。それに加えて彼女の服装。白のオフショルダーに薄緑色のフレアスカートが彼女の魅力を何倍にも引き出している。普段とは違う大人っぽい魅力に俺は、完璧にやられていた。
「大城くん?大丈夫?何だが顔が赤いけど。」
「大丈夫だ。ちょっと暑いだけだ。」
「そう?ならよかった。」
こっちは全然よくねえんだけどなと思いつつも二人で智也と石崎が来るのを待っていた。
◇◇◇
「おまたせー。」
「理恵ちゃん。」
5分ぐらい待っていると石崎智也カップルがやってきた。やっぱ俺だけ場違いじゃないか?
「よっ。」
「…雄大。がんばろうな。」
もうこの時点で智也の表情は死んでいた。いやほんとに何があったんだお前。
「それじゃあ、レッツゴー。」
石崎の掛け声と共に俺たちは、目的地を目指して歩く。目指す先は、駅近くのショッピングモールだ。
「じゃあ、私たちいろいろ選んでくるから待っててねー。」
そう言い残して黒川と石崎は奥へと引っ込んでしまった。今俺たちがいるのは服屋だ。
「いいか、雄大。ここからが正念場だ。」
「お、おう。」
俺は、急に熱くなった智也に少々引きつつもリア充の言葉だ、聞いておいて損はないだろう。少なくとも俺よりは女心は理解していると思うし。
「奴らは、きっといろんな服を着てくる。ここで大事なのは、同じ言葉を使わないということだ。」
「う、うん。」
「似合っているとかではなく、どこがどういう風にいいのか言わなければならない。」
「でもそれ智也の役割だろ。俺荷物持ちだから関係ないんじゃ「甘いぞ、雄大。」」
急に智也が割り込んできた。びっくりするなあ。
「残念ながら…誠に残念なことに俺は、理恵のことで手がいっぱいだからな。黒川は任せたぞ。」
「はぁ!?」
今なんて言ったこいつ。俺にそんなスキルがあるわけないだろ…。智也が後悔すると言っていたのはこういうことなのか。
「どうやらお出ましのようだぞ。行くぞ。」
「はぁ、まじか。」
俺は、とぼとぼと智也の後をついていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます