第12話 テスト結果

「いよいよお楽しみの点数公開だな、雄大。」


「…お、おう。」


「どうした?まさかビビってんのか?」


「そんなわけないだろ。負けるわけないって。」


「それならいいさ。早く行こうぜあの二人も待っているだろうし。」


「あぁ。」


俺は、智也と待ち合わせの場所に向かった。智也の顔を見ればなんだか胸がズキッと痛むような気がした。


「まずは、英語からでいいな?」


「うん。」


「おっけー。」


「じゃあ、いっせーので見せ合おう。」


みんながテストを裏返した状態で構えている。みんななんだかそわそわしてるように見える。


「45」


「48」


「86」


「92」


上から智也、石崎、黒川、俺だ。


「ぐぬぬぬ。」


「紗帆ちゃんが負けるなんて。」


「悔しい。」


「まじあっぶねー。」


普段の俺は、大体80点くらいをとれるように目指している。やはりお宝スイーツがかかっている以上俺も本気を出さねばなるまい。いやほんとに焦った。


「まだだ。まだ終わらんよ。次は、地理だ。」


智也がどっかのアニメで聞いたことのあるセリフを口にしだした。それにしてもどうしてこんなに智也が熱くなっているんだ?


「せーのっ!」


智也の言葉に合わせて裏返す。


「43」


「93」


「89」


「95」


先ほど順番は同じだが重要なのはそこじゃない。


「93ってどんだけ地理に情熱注いでんだよ。」


「それでも負けてるし。」


石崎の秘策はやっぱり一教科に絞ってきたのだろう。めちゃくちゃ高い。暗記系というのもあってかなり時間をかけてゆっくり覚えてきたのだろう。黒川は、安定して高いな。


「黒川も高いし。何をそんなに言うこと聞かせたいんだ?」


「ん?とりあえず買い物にでもついてきてもらおうかと。」


「荷物持ちでか?それくらいなら別に「甘いぞ、雄大。」」


智也が大声をあげて割り込んできた。正直他の客の迷惑なのでやめてほしい。


「お前、女の子と買い物は?」


「行ったことあると思うか?」


「まぁ、ないだろうな。」


速攻で認められた。何だがむなしいなこれ。


「女の子の買い物ってのは、まず長いんだ。そして服を選びだしたら地獄の始まりだ。」


「じ、地獄?」


智也が思わず死んだ魚のような眼をしている。いやなことでも思い出してしまったのだろう。


「色とりどり変わる衣装。お前はそれを褒めなきゃならないんだぞ?しかも似合っているとかじゃなくて毎回言い方を変えなければならない。」


「でもそれって智也だけじゃないのか?俺には、関係ないだろ。」


智也が何言ってんだこいつみたいな目で見てくる。いやだって俺荷物持ちすればいいだけでしょ?褒めたたえるのは智也の役割だろ。うん。


「はぁ、忠告はしたからな。とりあえずお前も味わえばわかる。」


そう言い残して元の席に帰った。どうやら相当に買い物にトラウマがあるようだ。お前は、どうせ巻き込まれるんだから。関係ないだろ。


「とりあえず、内緒話が終わったところで次行こうか。」


着々と見せ合うテスト結果。だが今のところ俺は、負けていなかった。ちなみに智也は英語を暗記で詰め込んでいたが記号問題のところで解答欄が一個ずつずれているという事故が露見し、あえなく撃沈した。

残すところは最後の古文。だがこれだけは不安があった。


俺は、古文が一番苦手だ。たぶん今回のテストで一番悪いのはどれかと聞かれたら古文と答えるだろう。だがもう受けてしまった勝負だ。やるしかない。


「最後だし、一人ずつ見せようじゃないか。見よ、これが俺の点数だ。」


名前の下に見える32という文字。俺は、どういう反応をすればいいのだろうか。


「とりあえず…次はがんばって。」


「うぐっ。」


黒川の辛辣な一言に智也が撃沈した。


「次は、私の番ね。どうだ。」


みんなテンション高すぎだろう。これが陽の者たちか。と思いつつも点数を見る。34点。


「とりあえず赤点回避おめでとう。」


「ぐはっ。」


黒川によって今度は、石崎がやられた。残るは俺のみか。


「はい、どうぞ。」


俺は、陽の者ではなく陰の者なので普通にテストを差し出す。90点だ。今回は、めちゃくちゃ調子が良かったので全部90を超えた。今のところまだ黒川は、90台を見せていない。だが油断はできない。


「ふっふっふ。」


なんだか怪しい笑みを浮かべだした。まさか…。


「今回の勝負私たちがもらいます。」


バシッという音ともに置かれた一枚のテスト。そこにはでかでかと100の文字が書かれている。


「なっ。」


「よくやった、黒川。」


「やったね、紗帆ちゃん。」


「私やったよ。」


黒川の勝利とともに再び息を吹き返した二人。でもどうしてだろうか、会話が苦労して勝ったボス戦後にしか聞こえない。


「おっし―には、約束通り荷物持ちで付いてきてもらうからね。」


「お、おう。」


石崎の言葉にピシッと固まる智也。さてはお前忘れてたな?さっきまでと違って明らかにしょぼくれている。


「それにしてもこのメンバーっていいね。気を使わなくていいし、まるでフィライトのみんなみたいだよ。」


「!?」


黒川の言葉に思わず硬直する俺。


「あっ、えっとフィライトっていうのは私たちのやってるゲームのギルドでね。みんなとてもやさしくてつい思い出しちゃったんだ。」


「なるほどね。」


分かってるよ。そんなの俺が一番分かってるに決まってんだろ。だって俺が建てたギルドなのだから。うれしそうな黒川の顔を見るたびに心が痛い。


「雄大は、ゲームなんてしなさそうだしな。」


「なんかわかる気がする。一日中勉強してそう。」


「さすがにそこまでガリ勉じゃねぇ。」


俺は、この3人といるのは楽しい。だからこそ俺は、壊したくないこの風景を。俺は自分が情けないと思う。でも俺は怖いから勇気が出せない。なりたくないんだ。


陰鬱になりそうな胸の内を表情に出さないように気を払いつつ、この日は解散した。

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