第10話 勉強会
翌日、俺は落ち着きがなかった。なんせ、アークにエリーまでもが知り合いだとは思ってもいなかったからだ。世界って狭いんだなって不覚にも思ってしまった。なんせ何万とあるゲームの中で同じゲームを選び、同じギルドに入ったメンバーが全員同じ学校でその上同じクラスだなんて思いもしないだろう。
そんな中くだんの人物が俺の元へやってきた。
「頼む雄大、この通りだ。」
「いや何がだよ。」
いきなりやってきてそうそうこいつは、土下座した。一体何事か。
「お前、わからないのか?テスト期間だよ。テスト。」
「あぁ、テストね。そうかもうそんな時期か。」
「くそぅ。成績優秀者め。」
俺は、ほとんどやることがなくゲームぐらいしか基本的にやってないので成績は結構いい。と言っても最高でも10何位くらいで大体いつも20位代くらいだ。
「というわけで勉強教えてくれ頼む。」
とは言え、ここまで真剣な表情の智也を見てると不思議と疑問がわいてくる。こいついつも赤点ギリギリなのに今回に限ってやるき出してるからな。
「ちなみに理由を聞いても?」
「そりゃ、俺たちも二年。そろそろ大学入試のことを考えなきゃならないからな。」
いい心がけだと思う。大学入試に備えてなかったがために後悔する3年生は多いと俺もよく聞く。ただ一つ残念なことは…。
「本音は?」
「黒川さんにバカだと思われたくない。」
結局こういうところなのだ。でもそれが自分のためではなく、石崎のためなのが憎めないんだよな。
「いいぞ。」
「え?いいのか。」
信じられないといった顔つきで智也が見てくる。心外だ。
「智也が嫌ならいいけど。」
「嘘嘘嘘。じゃあ、ファミレス集合な。遅れんなよ。」
「おう。」
あれ?俺はてっきり男二人でやるもんだと思ってたんだけど。ひょっとして違うのか?ちょっとひっかかりつつもその後の授業は真面目に受けて過ごした。
授業が終わり、即座に家に帰る。そこまではいつもと同じだがここからが違う。急いで鞄に勉強道具を入れ直して外に出てファミレスに向かう。ここで刺すファミレスは、セイゼリアという学生にも優しい値段で様々なものが食えるところだ。学校からかなり近い位置にあるために結構うちの生徒のたまり場になっていることが多い。
それにしてもみんなでセイゼに集まって勉強とかなんだが青春みたいだね。ほかのメンツ俺知らんけど。
『窓際の四人席だ。早めに来いよ?』
すでに俺以外は集まっているようだ。いや、用意周到だな。とりあえず俺は、メッセージで送られてきた席を探す。すぐに見つかった。
『おい!なんで黒川さんがいるんだよ。』
『ん?ついたのか?なんでって理恵が誘ったからだよ。まぁ、早く来い。』
若干、帰りたくなりつつも俺は智也たちの元へ向かった。
「よっ、遅かったな。」
「おっし―遅いよ。でもおっし―がいるなら安心だね。」
「残りの一人って大城君だったのね。」
三者三様の返しが返ってきた。ちなみにおっし―というのは、俺のあだ名(石崎限定)で。大城って言いにくいからおっし―になったらしい。
「大城君って勉強できるの?」
「まぁ、そこそこってところだよ。少なくともこの二人よりはできる。」
黒川が効いてきたので当たり障りのないように返しておく。別に20位くらい誰でも勉強すればできると思っているし、そこまで誇れるような点でもない。
「言ったね、おっしー。それなら勝負をしよう。」
「は?」
突然の石崎の申し出に思わず間抜けな声が出てしまった。だが、石崎はそんなことを気にせず話を続ける。
「私たち3人とおっし―のテストの点数勝負。」
「いやいや待て待て。流石に3人のテストの合計に俺一人で勝てるわけないだろ。」
「さすがにそれはそうだよ。だから、私たちの誰かが一教科でもおっし―の点数を超えていたら一つ言うことを聞いてもらいます。」
「なるほど。それで俺が勝った場合は?」
「そうだね。じゃあ、3人でそれぞれスイーツをおごりましょう。」
「ほんとか!?」
俺は、こう見えてもめちゃくちゃ甘党だ。この勝負黒川の実力は分からないがメリットは大きい。
「いいだろう。その勝負乗った。」
俺がここで気を付けるべきなのは、黒川のみ。ここは全力を出す時が来たようだ。
「ふっふっふ。甘いね、おっしー。私たちにも秘策というものがあるのだよ。」
秘策だと。たぶん一教科のみに絞るとかそういうやつなんだろうけど。
「そうか。なら俺も秘策を出すしかない。」
「「え?」」
智也までもが声をそろえて驚きだす。俺に秘策がないと思っていたのだろう。
とは言え秘策と言ってもめちゃくちゃ単純だ。何も食ってないが致し方ない。とりあえず鞄を手に持ち、その場に立ち上がり一言。
「じゃあ、後はがんばって。」
「「ごめんなさい。」」
結局二人に泣きつかれたこと以外は、おおむね順調に勉強会ははかどった。こういうのも結構楽しいなと思った。
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