第9話 もうやめて俺のライフは0よ
俺の日常生活は相変わらず変わることはない。いつも通り、教室の隅でかげになるばかりだ。そんな俺にもちょっとばかり今日楽しみがある。
今日は、久しぶりに俺たちのギルドフィライト全員が揃う日だからだ。
俺とクロを除くと残りのメンバーは二人だ。
一人が全身鎧のアーク。装備を見てわかる通り防御力が高く、チームの要であるタンクだ。もう一人がエリー。いつも何かしらの仮面をつけていることから仮面術師とも呼ばれている。アンリミでは、顔の造形をいじったりができない。そのためリアルの顔が特定されるのを恐れる人も多い。
そのためこのゲームは、顔を隠すための装備がかなり充実してるし、俺もいつもスカーフをして顔を半分隠している。クロぐらいだろう。顔をさらしているのは。
「よっし、準備完了。」
洗い物も済ませ、夕飯も食べた。宿題もすでに済ませている。時刻は8時ごろ。少なくとも4時間はできる。
俺は、ゲームを起動させる。
「うわっ、メッセージじゃん。」
ゲームを付けると届いていたのは、山のようにあるメッセージ。どうやらかなり遅くなってしまったようだ。とりあえず急いで俺は、ギルドハウスがある街の方面へとダッシュで移動する。
「それで今日学校でさ…。」
「うんうん。」
中に入ると、それはもうびっくりした。あれだけリアル漏れを気にしていたエリーがクロと仲睦まじくリアル話をしている。(学校という単語が聞こえたから多分そうだと思う。)
「なぁ、お前たちそれは普通に気安く話してもいい内容なのか?」
「「ユウ?」」
二人ともいつの間にいたの?みたいな目でこっちを見てるんだ?さっき普通に堂々と扉から入ったはずなんだが。
「それよりもアークはどうしたんだ?俺てっきり4人で遊ぶのだと思ってたのだけど。」
「あぁ、それならお手洗いでログアウトしたらしいよ。誰かさんが遅かったせいでね。」
「その節はすいませんでした。」
エリーの攻めるような物言いに俺は何も言えない。一番楽しみにしてたくせに一番遅いという大変申し訳ないことになっている。
「うそうそ。怒ってないよ。そうだねぇ、でもそれだけじゃつまんないから。うーん。」
何か考えるような仕草をするエリー。それよりも俺が部屋に入ってからクロが全くと言っていいほど口を開かない。すごく気になる。
「クロが言いたいことがあるみたいだよ。」
「え?エリーちゃん!?」
「じゃ、お邪魔虫は下がっているから。いうこと言ったら教えてねー。」
「「……。」」
取り残された俺とクロ。最後の記憶がアレなだけにめちゃくちゃ気恥ずかしい。
「あ、あのねっ、ユウ君。」
「おう。」
「良かったら私とリアルでも…。」
「ちーす。お待たせ―。あれどうしたの?」
ある意味すごくいいタイミングでやってきたアーク。おかげでクロが言おうとした言葉が聞き取れなかった。
「……。」
(あ、これはすごく怒ってらっしゃる。)
クロと長いこと付き合ってきた俺だ。彼女は怒った時にまず黙り込む。とりあえず俺は、耳をふさいで備えておく。
「こんのっ、馬鹿ーーーー!!!!」
「さて、この馬鹿が盛大にやらかしたわけなんだけども。」
エリーの言葉にクロがうんうんと頷く。そのそばには、正座させられている全身鎧がいる。無駄にピカピカしているのがうっとうしい。
「私たちは、とある隠し事があります。今からそれを言います。」
「隠す必要があるから隠し事なのに俺に言ってもいいのか?」
エリーの言葉に俺は疑問を尋ねた。だって隠し事だよ?
「いいんです。むしろユウ君だから言う必要があるんです。」
「?」
俺の頭の中に???が浮かぶ。言わなきゃいけない隠し事とは…。
「あのね、私たち同じ学校なの。」
「うん。え、ええええええええ。」
俺は思わず絶叫をあげた。こいつらは、学校が同じという事実に驚いていると思っていることだろう。だが違う。俺が驚いているのは、クロと――黒川と同じ学校ということは、すなわち俺と同じ学校だということだ。
(え?誰だ。思いつかねえんだけど。)
考えていると、おもむろにエリーは仮面を、アークは、兜を脱ぎだした。
(うっそだろおい。)
「あくまでもこれは、私たちがユウを信頼していってるんだからね?誰にも言わないでね。」
「頼むぞ。」
「お、おう。」
二人が顔を見せてきたのは信頼の証というやつなのだろう。それにしてもアークが俺の親友の佐伯智也でエリーが彼の彼女の石崎理恵だなんて。もうやだ、胃がキリキリしてきた。
あくまでもそれは、同じ学校だという情報があったから分かったに過ぎない。それくらいやっぱ髪と目の違いというのは大きい。クロ?自分の彼女の違いぐらい分かるでしょ。
結局この日、クロが言いかけたことを俺に再度伝えることはなかった。
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