俺が図書室に通っている理由

@山氏

図書委員のあの子

 ぼーっと棚に並んだ本を眺めながら、カウンターに座る女生徒を眺める。

 俺は真面目に読む気もないが、適当に1冊手に取り椅子に腰かけた。

 パラパラと流し読みしながら、チラチラ女の子の様子を伺う。

 彼女も読書しているようで、カウンターに本を置いて俯いている。

 ここ何日か、俺は図書室に通っていた。本を読むためではない。彼女と少しでもお近づきになりたい、という邪な理由で、だ。

 最初に彼女に会ったのもこの図書室だった。俺は課題に追われ、逃げ込んだ先が図書室だった。図書室なら課題をしている感が出るし、文句も言われないだろうという理由だったが。

 そこで出会ってしまった。黒髪ロングで、眼鏡の奥に見える目はキリッとしていて、近づきがたいオーラを出してカウンターに座っている彼女に。

 名前すら知らない女の子に、俺は一目惚れしていた。この子と付き合いたい、話してみたい。そんな風に思ってしまった。

 それから何日か図書室に通い、彼女がほとんど毎日図書室にいることはわかった。たまーにいない時もあるが、決まった曜日というわけでもない。

「あの……もう図書室閉めるので……」

 ぼーっと考えていると、彼女が俺の近くに立っていた。

「え? ああ、ごめんなさい!」

 俺は勢いよく立ち上がり、彼女に頭を下げた。

「その本、借りていきますか?」

 彼女は俺が机に置いていた本を指さして言った。

「はい! 借りてきます! これ、好きだったんで!」

 つい適当なことを口走る。

「……そうですか」

 淡々と彼女は言うと、本を持ってカウンターに向かっていった。

 俺は彼女から本を受け取り、カバンに入れる。

「返却期間は1週間なので」

「わかりました! だいたい毎日図書室に来てるんで大丈夫だと思います!」

 彼女は無表情で俺のことを見ていた。

「あ、すみません。出ていきます……」

 いらないことを話してしまったと落ち込みながら、俺は図書室を出た。

 


 次の日、俺はまた図書室に来ていた。昨日、読む気もないのに借りた本を持って。

 適当に座り、本を開く。いつものように、内容を見ているわけではなく、彼女の方を見ていたが。

 ふと、彼女と目があった、気がする。俺は慌てて視線を本の方に戻し、読書しているフリをした。チラっと彼女の方を見ると、もうこちらを見ておらず、読書に戻っていた。

「あの……」

 今日も、彼女に声をかけられた。というより、閉館時間ギリギリまでいれば彼女が話しかけてくれると知って待っていた、という方が正しいだろうか。少しでも彼女との時間を作りたかった。

「あ、ごめんなさい。出ますね」

 ただそれだけの会話でも、なんだか嬉しかった。

 俺は本をしまって図書室を出る。家に帰る途中も彼女のことを考えている。

 

 

 次の日、彼女は図書室にはいなかった。俺はため息を吐いて図書室を出ようと入り口に向かう。

「あ……」

「うわ、ごめんなさい」

 図書室を出たところで、誰かとぶつかりそうになった。咄嗟に避け、頭を下げる。

「今日はもう帰るんですね」

 そう言われれ顔を上げると、彼女だった。俺はやってしまったと頭を抱えそうになる。

「はい、ちょっと用事で……」

 今から図書室に戻ったら完璧に変な奴だ。俺は用事などないが、適当に理由を付けて学校から出る。

 家に着いてから、トイレとか言っておけば図書室に戻っても違和感がなかったと気づき、深いため息を吐いた。

 

 

 さらに次の日、俺が図書室に行くと、彼女はすでにカウンターに座って読書していた。俺が入ってきたのをチラっと確認して、すぐに読書に戻ってしまう。

 俺はまた適当な位置に座り、借りてしまった本を机に出して読書するフリをする。

「起きてください……」

「へ……?」

 肩を揺すられ、ゆっくりと体を起こす。すぐ近くには彼女がいて、困ったように俺の方を見ていた。

「もう閉めますので」

「ごご、ごめんなさい! すぐ出ていきます!」

 いつの間にか寝てしまっていたようだ。俺は慌てて本をカバンにしまい、図書室から出る。

 やってしまった。彼女にも嫌われてしまっただろうか。そんな不安を抱えて家に帰った。



 読む気もないし、そろそろ本を返すか、と俺はまた図書室に来ていた。

 彼女は今日も来ており、カウンターで読書している。

「あ、あの。これ返却します」

「はい、置いといてもらえれば」

「え、えっと。オススメの本とかってないですか?」

 俺は勇気を出して、彼女に話しかけた。彼女は少し考えるような素振りを見せ、言った。

「どういう本が好きですか?」

 どういう本……? 普段全く本を読まない俺は、どういう本があるかも知らない。

「え、えっと、君が面白いと思った本が読みたいというか、うーんと……」

 焦って変なことを口走る。

「……じゃあ、これ」

 彼女は自分がさっきまで読んでいた本を俺に差し出した。 

「え? これは今読んでたやつじゃ……」

「もう読み終わったやつだから」

「じゃ、じゃあ……」

 俺は彼女から本を受け取り、まじまじと本を見つめる。

「まだ何か?」

「あ、ごめんなさい!!」

 俺は慌てて本をカバンにしまい、図書室の入口へ向かった。

 図書室と出る際、チラっと彼女を見ると、少し微笑んでいたような気がする。

 俺は顔が熱くなるのを感じて、走って家まで帰った。

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