唐梅VSハイラントショー② 「主将戦の次はリーダー戦だ」

 鉄と鉄が激しくぶつかる。銃の腹に刀が食いこむ。


 こちらは両腕で斬りかかっている。対して、ハイラントは片手に持った銃で一刀を防いでいた。


 部隊の銃口が自分を捉える。あまっている手をふって部隊に銃を下ろすよう指示し、ハイラントが落ちついて語りかけた。


「攻撃の相手、間違えてんぞ」


「やめさせてください……! スカーに、演舞を放せと言ってください……!」


「ああ、そういう。……スカー、噛み潰せ」


「――!!」


 不快な音が頭上で鳴る。演舞がスクラップされる機械のようにみしみしと、スカーのあごに押しつぶされていく。


 自分たちを守ろうと戦ってくれたNPCが苦しそうにのた打つ姿に、血管が炙られる。半狂乱になり、ハイラントに刀を叩きつけた。ものともせず攻撃を片手で防ぎ、ハイラントは告げる。


「勝負あったな。スカーの勝ちだ。というわけで……先制攻撃。おまえら、被験者をやれ」


 無情な声に呼応して銃声が響く。部隊の銃に加え、兵器のNPCたちの火炎放射が平野を飛ぶ。攻防する僕の横や上を通過して、岩に隠れる仲間たちを襲う。


 自身の死よりおそれる状況を目の当たりにし、声を荒げる。


「NPCはまだしも、どうして人に平気で攻撃できるんです! 演舞はあなた方を牽制しただけで、殺す気なんてなかった! そちらが銃を撃ってくるから、銃弾が効かない演舞に出てもらったにすぎません!」


「ええ? でも、あいつレーザービーム……まあいい。今さら何言ってんだかなあ。ここまで来るのに散々殺してるだろ、おまえらだって。何より、命の保障はございませんって書類にサインしてんだろ」


「……おっしゃる通りで……! ……しかしながら、人間同士殺し合う必要は、本来ないはず……! ポイントはNPCを倒すだけでも稼げます!」


「ゲームなんだ。人間だろうがNPCだろうが、敵がいりゃあやり合うに決まってる」


 ゲーム。繰り返すハイラントに、初めに抱いた印象が間違いでなかったことを確信する。


 プレイヤーではなく、被験者。最初の実験で、パーカーの少年が冷たく言い放ったことだ。


 しかし、ハイラントたちはどうだ。そろいの軍服を着て、顔色一つ変えず引き金を引く。勝ち上がることしか考えていない。いや、それすら考えていないのかもしれない。


 被験者ではなく、プレイヤーだ。このサイバーセカンドに、命がけのゲームを楽しみに来たものたち。


 ゲームの世界観に抵抗がない、などというレベルではもうない。この電子空間を、殺し合いの実験をゲームそのものと言い切る、狂人の部隊。


 分析するこちらの不意をつき、ハイラントが後ろに身を引いた。押し合っていた力が急になくなり、重心がかたむく。機敏な動きで背中に回られる。


 腕に痛みが走る。気がつくと、平野の地面が視界のすぐそこにあった。


「いいなあ、この刀。俺にくれよ」


 ずしり。自分の背にハイラントの体重がのしかかる。両腕を掴まれ、下に組み敷かれている。


 刀、と言われて血桜を探そうとする。


 体が動かない。どうにか首だけを動かす。岩影から顔を出した仲間たちが、冷や汗をかいてこちらの様子をうかがっている。


「……使ったら死にますよ、それ」


 武器を奪われ、情けない姿勢のまま、刀に興味津々のハイラントに血桜のリスクを教えてやる。一見負け惜しみのようだが、まごうことなき事実だ。


「えっ。何その設定……ああ、脅しか」


 脅しでもなんでもないこちらの発言を、ハイラントが勝手に解釈する。


 奪った刀を回転させ、刃の先端を僕に向けた。


「……どれ、主将戦の次はリーダー戦だ。最初は刀の主人で試してみるか、ってね」


 血桜の美しい刃先が首もとに近づく。荒野に吹く風を受けた冷たい刃が首にふれ、体温でぬるくなっていく。


「くっ……なんてこった。これじゃ本当に設定通りじゃないか……!」


 今まさに自分を斬り殺そうとしている刀に、これが妖刀血桜今日びの呪いか、と真剣におののく。


 仲間が悲鳴をあげ、限武と好削が自分の武器に手をやった。ハイラントの後ろにいるであろう部隊の姿は確認できないが、おそらく嬉々としてこの光景を見守っているのが想像できる。


 ならばその隙に、と自分の仲間に向かって声をかける。


「皆さん、逃げてください!! すみませんでした……言ったそばから協定を機能させることができなくて……!」


 謝罪しながら、何を言っているんだと己を叱責する。これでは、まるで諦めたかのようではないか。


 ダメだ。ここで死ぬわけにはいかない。


 ここで死んで、グッドディードをどうする気だ。誰が止めてくれるというんだ。自分でやつをコントロールすると、そして自分たちなりの正義を果たすと、そう決めたんじゃないか。


 ハイラントが鼻歌まじりに、首に当てた刃先を動かした。小さな痛みに目を閉じる。首筋をあたたかいものが流れていく。


 仲間が顔を青くする。限武と好削すざくが、今にも飛びだそうと構えた。自分を助けようと二人が動く気配を感じとり、頼む、来ないでくれと願う。


 力じゃ敵わない。口でなんとかするしかない。グッドディードを一時的にやりこめたときのように……!


 ハイラントたちの行動をふり返る。


 被験者ではなく、プレイヤー。平然と武器を扱う冷酷さの理由には、積もった退屈が隠れている。

 演舞に興奮する、子どもじみた部分。機械のように、無感情な部分。

 無邪気。無感情。無邪気。無感情。


 その中でハイラントが数回見せた、自身の人間性を表す行動。


 刀が首に強く食いこむ。仲間が息をのんだ。


 ゆっくりと目を開ける。血を流す首をかたむけて、ハイラントに向かってぼそりとつぶやく。


「大事な軍服が破けていますよ」


「……えっ」


 ハイラントが服に手をやる。


 拘束を解かれ自由になった腕をふり、身を翻した。ハイラントの視界を奪おうと顔に飛びかかる。


 限武と好削が飛びだすのが見えた。遅れて部隊が銃を構え、二人と僕に向けて発砲する。


 銃弾の雨粒が腕や頬をかすめ、血が弾ける。粒はそこで止まってはくれず、勢いを保ち続け、走り寄る二人に襲いかかった。


 爆発音に近いものが轟いた。


 二人が後方へ飛びのく。銃弾の雨が弾き返され、バラバラに散る。見覚えのある赤い光線がメガネのレンズに反射し、通りすぎた。


 限武と好削を狙った鉄の弾丸を押し返し、平野に赤い釘が突き刺さる。


「ご主人様。悪属性がちっともいません」

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