グッドディードと痛快な仲間たちVSハイラント部隊 苦儡屋演舞の狂演舞① 「なんだあのファッキンなNPCは!!」

 部隊がいっせいに銃を構えた。発砲しない、という発言の期限が今をもって切れたらしい。


「――!! 皆さん、岩に隠れ――」


 反応が遅れ、体に大きなものがぶつかった。その物体に押され、岩の影に倒れこむ。


 大量の発砲音が放たれる。ビスビスと岩や平野の地面に穴が増えていく。


 けたたましい銃声に耳をやられそうになる。物体にのしかかられ、学ランの下に着ているシャツにひんやりとしたものが滑りこんだ。シャツの中で素肌がまさぐられる。


「ぎゃあ!!」


「どうした、唐梅」


「痴漢です!」


「なんだと、それは大変だ。おい、痴漢が出たぞ! 誰かここに警察を呼べ!」


「あなたですよ!!」


 警察を呼べるものならとっくに呼んでいる。上に乗っかっている好削すざくを押しのけ、シャツからその手を追いだす。銃弾からかばってくれたのはいいが、代償にセクハラされるいわれはない。


 ここには本当に非常識なものしかいない。今の状況をわかっていないのか。


 しかし、非常識とはいえ好削は協力を申し出てくれた仲間だ。救うと決めた相手に怒るべきじゃない。できるだけ穏やかに対処しなくては……。


 頭のおかしい好削の変態行為に抵抗している間に、銃声が止む。


 後ろをふり返る。仲間は全員岩に隠れている。ケガをしているようなものはいない。


「……ったく、当たりゃしねえ。全然FPSじゃねえじゃねえか」


「それ、結局デマでしたからね」


 銃を撃ち、まるで家でゲームをしている感覚でハイラントとコルネットが愚痴をこぼした。


「まあ、一人称視点には違いない。……出てこい、カラウメ。そしてその仲間たち。出てこないなら、あぶりだすまで」


 冷淡な声。続く銃声。仲間が悲鳴をあげ、身をふせた。


 一向に止みそうにない部隊の猛攻に、好削を押しのけて前線に出ようとする。


「落ちつけ、唐梅! 相手は銃だぞ、冷静になれ。弾がつきるのを待つんだ」


「いいえ、あの人たちどういうわけだか車を持っています……! 車内にも武器を大量に抱えている、おそらく他の……殺した被験者たちから奪ったんです! ログインボーナスで手に入る量じゃない」


「それでもつきるのを待て」


 細い腕からは想像もできないほど力の強い好削に押しこめられる。


 頭では好削の言っていることを理解している。だが、仲間のおびえる姿にいても立ってもいられない。

 足の震えが嘘のように収まっている。とにかく自分が前に出なければ、と好削の腕から逃れようと暴れる。


「――!? た、たたた隊長!! あ、あそこにいるファッキンな野郎は……!!」


 ファッキンな野郎? 突拍子もない声に首をかしげる。


 部隊の黒人男性が発砲をやめて指をさした。軍服のボタンをチェックし、ハイラントが男性の指さすほうに目を向ける。


 大きな岩が平野の中央にそびえ立っている。そのてっぺんに、青空の逆光を受けた何者かの影。


 和傘に顔を隠し、腰の帯に刀をくくりつけた着物姿のもの。仰々しく傘を持ち上げると、明らかに人外の顔を見せ、見得を切る。


 いつの間に岩影を飛びだしたのか、まさに侍という出で立ちの演舞の登場に部隊がわいた。


「なんだあのファッキンなNPCは!! 人間じゃなかったのか!」


「病的!!」


「病的にクール!!」


 部隊の男性陣の熱狂ぶりに、何か翻訳がおかしいと感じる。翻訳ツールの精度を疑うも、演舞がいたことを思い出して肩の力が一気に抜ける。


 今残っている他のNPCは動物型のものが多い。銃弾を受けたらひとたまりもないだろう。だが、演舞なら――。


 主人である限武げんぶがこちらにうなずく。そして、演舞に「行け」と手をふった。


 演舞が傘を閉じ、岩から飛ぶ。重量のある体で平野に軽い地響きを起こし、俊敏な動作でハイラントたちがいるほうへ走りだした。


「侍来たぁああーっ!!」


 危機に喜ぶ部隊が銃を構え、演舞に向かって躊躇なく銃弾を放つ。銃弾が横殴りに降る中でも足を止めない演舞が、閉じた傘を一瞬で開き、猛スピードで回転させた。


 ――ガガガガガッ!! 


 傘に弾かれた弾が四方八方へ散る。跳弾ちょうだんが構わずこちらにも飛んできて、顔をかすめる。


 僕をふくむ仲間たちが演舞の周りをかえりみない防御に絶叫する間、部隊は狂喜に近い大歓声をあげた。


 いったい何でできているのかわからない傘をバッと横へやり、演舞が顔を出す。おもむろに、むきだしの歯をガパリと開ける。


 口内が顕になった。口の中が青白く光り、丸い光がキリキリ震えている。


「えっ」


 ハイラントが戸惑いの声を漏らす。瞬間、演舞の口から光のエネルギー、つまるところ”レーザービーム”が放たれた。


 青い可視光が平野を一直線に焼き、その直線上にあるハイラントらの車に直撃する。車の表面が赤く燃え上がり、あっという間にまっぷたつに焼き切った。


 さきほどまで車だったものから急いで離れると、ハイラントたちが今度こそ悲鳴をあげる。


「刀使えよぉおおお!!」


 ハイラントのもっともらしいツッコみが響き渡る。


 叫びに応えるかのように、演舞が自身の腰に携えている刀を引き抜いた。


 鞘から取り出されたことで空気にふれた刃が、ビリビリと電気をまき散らす。帯電する異様な刀をハイラントに向けて構えた。


 その刺激的な様にハイラントは震えを起こしている。恐怖、ではない。武者震いか。


 演舞が鋼鉄の足で近づく。電流にうごめく刀を静かに構え、にじり寄る。


 ジャリッと平野の砂を巻き上げ、鋼鉄の侍が部隊に斬りかかった。

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