ハーレム部隊ならぬ、ハイラント部隊登場!? 「侍!! 侍!!」

「なあ、30だろ? う~ん……28か? 9? 29だろ」


 挨拶もなしに、いきなり年齢を聞かれる。首をひねってこちらの年を言い当てようとしている。なんとも不躾な相手だ。


 適度な長さの金髪に、ほりの深い顔、ブルーの目。どう見ても外国人だ。とうとう他国の被験者と対峙した。男が日本語を喋っているのは、これも翻訳ツールの機能によるものか。


「唐梅くん、ダメよ! 素直に出ちゃダメ! 早く戻りなさい!」


「そうだ、早く戻ってこい」


「ったく、俺が出てやろうとしたのに。年長さんだから」


「最年長と言え、ジジイ」


 呼ばれたまま平野に飛びだした僕に、陽恋を筆頭に仲間たちが声をあげている。戻れだの代われだの言ってくれているが、僕は耳を貸さない。


 軍服の男の動向に気をつけながら、情報パネルを出す。紅白のときのように、前にいる男の被験者名が表示されるのを待った。


 パネルに英字が表示される。『ハイラントショー』、とすぐカタカナ表記に切り替わった。これが男性の名前か。見た目と名前の情報だけだと、国籍までは判断がつかない。


「おいおい、なんだありゃあ。女ばっか。ハーレム軍団かよ」


 限武が呆れたように言う。その言葉に、協定の仲間たち――といっても男性陣のみ――がぞろぞろと興味深げに顔を出し、軍服集団を眺め回した。


 ハイラントの後ろには、同じ軍服で着飾った部隊が控えている。赤毛の女性や黒人の男性など、多種多様な人種が集まっている。


 確かに女性が多い。なかなか男前なハイラントがリーダーだからか、部隊の半分以上が女性だ。その女性陣も目鼻立ちのはっきりした美女ばかり。

 ハーレムというほどの男女比ではないものの、雰囲気的にはそんな感じだ。


 一方で、NPCの姿がまったく見当たらないことに疑問を覚える。彼ら……いや彼女らは、他国の被験者には違いない。しかし、引き連れているものといえば車だけだ。


 ついでに向こうにある岩壁を確認するが、ちらりと見えた龍のしっぽはもう消えていた。グッディの姿もない。どのみち、今は探していられる余裕はない。


 まずは姿勢を正す。警戒は解かず、血桜に手をやる。痛む足を引きずりつつ、丁重にお辞儀をした。


「……初めまして。唐梅と申します。年は17です」


 どよめきが起こった。ハイラント部隊が物珍しそうに車の影から身を乗りだして、僕を見ている。実年齢に驚いているのもあるだろうが、どうやらそれだけではない。


 ハイラントが前のめりになり、興奮を隠さずまくし立てた。


「ひゅーっ! 見たか、今の! 侍だ!!」


「侍!! 侍!!」


「まじにお辞儀してやがる、戦う前に!!」


 ハイラント部隊の男性陣がわき立っている。からかいなんだか称賛なんだかを受け、彼らの興奮の理由を思い知る。


 僕の持つ刀や、日本式の挨拶に感動しているのだ。まさに外国人らしい反応だ。が、熱狂についていけない。


「あ~ん! あんなちっちゃい子がリーダーなのお~! キュートキュート」


「あんあんうるさいよ、アンネ。……でもあっち男多いな」


「クロネさん、また男漁りですか」


「うっさいな。結婚願望あんだよ、私。ほらコルネットも。17歳だってよ? 同年代じゃん」


「……あちらもゲーマーですか?」


「じゃない? 日本って強いの多いし」


「興味ないです」


 特に目立つ、かしましい女性三人組の声が届いた。赤毛の元気な女性と、黒髪の細身の女性、比較的静かな少女の三人だ。少女は金髪をさらに薄めたような髪の色をしている。ロシア系だろうか。


「いやあ~ん! ジャパンプレイヤーにボコボコに負かされちゃう~っ!!」


「負けちゃうよおお~っ!! 向こうどう見てもFPSガチ勢なんだけどぉおーっ!!」


 熱狂に包まれているハイラント部隊とは正反対に、紅白が絶望している。言葉の意味はわからないが、ゲームに詳しい紅白から見てもヤバい勢力ということのようだ。


「ったく、女どもはこれだから……電脳世界に何しに来てんだ。恋愛する場所じゃねーんだぞ。俺たちはゲームをしに来てんだ」


 まったくだ。不真面目極まりない。とハイラントのつぶやきに同意するも、後半の部分は聞き捨てならない。


 この状況をゲームと言ってのける感性。生き残っている被験者は、他国でも同じタイプの被験者と見てよさそうだ。


 ふいに、ハイラントが手をあげた。部隊に合図を送っている。車や岩影に隠れていた軍服の集団が、完璧に足並みをそろえ、ハイラントの横に一列に並んだ。


 こちらが血桜を構えているのを気にもせず、手に持った銃を小脇に抱え、彼らは敬礼した。


「我々は、ハイラントショー率いるハイラント部隊! ……そちらの部隊の名は?」


 突然がらりと雰囲気を変えたハイラントたちに戸惑う。


 ふざけている様子はなく、ハイラントはいたって真面目な顔つきでこちらの返答を待っている。待ちながら、軍服のボタンが全部閉まっているかチェックしている。


 しかし、答えられるような部隊名などない。そもそも部隊ではない。返答に迷っていると、


「グッドディードと痛快な仲間たち~」


 勝手に命名した紅白が、返事をしかねる僕の代わりに答えた。真に受けたハイラントが張った声を出す。


「これより、グッドディードと痛快な仲間たち対ハイラント部隊の決戦を行う!!」

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