銃弾の飛ぶ平野 「予想と全然違うじゃないの~っ!」

 演舞とともに先頭に立ち、岩壁を下りる。


 荒野の地面に下り立つと、周囲を見渡した。被験者やNPCの気配はない。銃声も今は響いていない。代わりに、グッディを探しに出たNPCたちが戻ってきている様子もなかった。


 広い平野に出る。自分たちが下りてきた岩壁の向こうに、さらに大きな岩壁があった。かなり距離がある。平野には岩が点在しており、その影に隠れて移動できそうだ。


 あたりへの警戒を続け、近くの岩の影に隠れる。後ろに続く仲間を待つ。演舞は僕よりさきの岩影で身を潜めている。


 仲間を待っている間、岩から少し身を乗りだした。向こうにそびえる岩壁の、さらに向こうを確認する。


 岩壁の横には青空が広がっていた。その青空の中に、鉄の龍の大きなしっぽがひょっこりと顔を出している。


 龍がいる!! 近くにグッディの姿は……。


 ――ダダダダダッ!!


 岩から出した足に痛みが走った。大きな音と足にくらった衝撃に戸惑いながら、急いで岩に戻る。


 後ろの仲間が無事か確かめる。同じく音に驚いているようだったが、みんなしっかり岩影に隠れて体をかがめていた。それを確認してから、自分の足を見る。


 ズボンが切れ、隙間から肌が覗いている。血が流れていた。


 この電子空間に来ていろんなことがあったが、自分の血を見るのはこれが初めてだ。こんな状況にさらされて初めて、自分はグッディによって大いに守られていたことに気づく。


 震える手で腰に携えた血桜を握る。正体不明の攻撃に備える。


 ……僕が戦わなければ。グッディがいない今、僕が仲間を守らなければならない。


 そして、ここで下手を打って死ぬわけにもいかない。NPCが一人生き残ったらどうなるのか、それがまだ判明していない以上、僕も仲間も誰一人、死ぬわけにはいかないんだ。


 身を隠している岩に、さきほどと同じ衝撃がきた。ジャッ、と横を一瞬で物体が飛んでいき、地面に穴をあけた。


 銃弾。地面にあいた大量の穴から、薄く煙が立ちのぼっている。


 攻撃の正体がはっきりわかったことで、ますます銃弾のかすった足が震えを起こした。諌めて体勢を立て直し、血桜を抜く。後ろの好削たちに合図を送ろうと、首を動かす。


『……あー、スニーキング系はもういいわ。もともと得意じゃねえし』


 突如鳴り響く、大きな声。思わずビクつく。


 アナウンスか? にしては、声がホウライのものではない。仲間をふり返るが、誰も喋ってはいない。


 警戒し固まっていると、岩影の向こうをガラガラと、地面の小岩を弾いて何かがやってくる音が聞こえた。聞き覚えがあり、耳を疑う。


『おい、リーダー出てこい。安心しろ、発砲はしない。こちらも隊長が前に出よう』


 ホウライのアナウンスのような明瞭な音声ではない。拡声器から発せられているのか、ざらざらと途切れる声の指示に反応し、限武が動こうとする。それよりも早く岩から飛びだす。


「あっ、こら! 戻れ、唐梅!」


 限武の制止を無視して、堂々と平野に出る。


 聞き覚えのある音の発生元を確認しようと見渡す。予想通りのものが視界に入った。


 ガタイのいい四角い車が、遠方に停車している。さっきの音は車の走行音だ。現実世界では毎日のように聞いていた。電脳世界で聞くと妙に新鮮で、違和感がすごい。


 車の窓や、車体の後ろから銃口が出ている。軍人のような帽子を被った男女がこちらを狙っていた。


「ちょっとちょっとぉ~、隊長~! 予想と全然違うじゃないの~っ!」


 車に隠れた赤毛の若い女性が、こちらに銃を向けたまま声をあげた。女性が隊長と呼んだ人物のほうを見る。


 平野のまんなか、岩や車に隠れることなく、僕以上に堂々と立っている軍服の男性がいた。首までぴっちりと閉じた緑の制服に、黒い革手袋とブーツを履いている。


 いかにも”ゲームっぽい”衣装を着ているその人物に、僕は早くも危険なイメージを持つ。


「おお、おお。マジでベビーフェイスだなあ、あんたらって。えぇーとぉ……その見た目で実は30代、とかか?」


 金髪をかき上げ、軍服の男は言い放った。

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