ほら穴作戦会議② 「おまえはどうすんだ、唐梅」

 戦う、という言葉に全員が反応した。ほとんどが不安や緊張に身をこわばらせていた。守ってもらえると聞いて入った協定なのに、戦うことを求められては戸惑って当然だろう。


 しかし、僕の発言に紅白が一番うろたえているのは……よく理解できない。


「不測の事態が起きたときや、僕たちが前に出ているその後ろで、戦えない方の護衛ないし後衛をお願いしたいんです。……どなたか、頼める方はいらっしゃいませんか?」


「あーはいはい、先生ー。俺、俺」


 先生、とからかわれて内心ドキッとする。限武がまた手を挙げてくれている。


 どうして教師を目指していたことを知って……いや、そうじゃない。何を驚いているんだ。ただの偶然じゃないか。気を取り直す。


「限武さん。あの……失礼ですが、申し出はありがたいんですが、その……」


「心配するな、唐梅。このジジイは見たままのジジイだが、年をくってる割には動ける。私も後衛に参加しよう。NPCはいないが、戦闘には協力できる。限武ともどもあてにしてくれていい」


 好削が気がかりに答え、二人組が後衛への参加を申し出てくれた。誰も立候補しないのではないかという心配がすぐに消えてくれて、ひとまず安堵する。


 二人が自分の武器を取りだす。好削は青龍刀、限武は背中にしょった二丁の銃剣を整備し始める。


「護衛は自信ないけど、衛生兵くらいなら。ねえ? みんな」


 陽恋に続き、残りの全員がうなずいてくれる。感謝してもしきれない。


「ありがとうございます! 皆さん。……それで、後衛はお二人だけ、でしょうか。……紅白曼珠沙華さん、よければ参加されませんか」


「ぶっ」


 紅白が仮面の下で吹きだした。


 何をそんなに驚いているのか。紅白はグッディの攻撃をよけるほどの運動神経を兼ね備えている。それを知っている僕からすれば、戦いに参加しないかと誘われるのは当然のことに思える。


 しかし紅白はおろおろと手をふった。


「……い、いやぁ~……僕は、ちょっと……」


「”紅白曼珠沙華”? なんか知ってるなあ、その名前」


 仲間がぼそりとつぶやいた。


「えっ、そうなの? もしかして有名人?」


「へえ、すごいじゃねえか。紅白さんよ」


「すごいな、紅白。どんな仕事をしていたんだ? 教えてくれ」


「いやいやいや!! 違うよ! 違うから!」


 ぶんぶんと腕をふって、必死に否定している。慌てふためく紅白を二人組がからかう。


「あ、ああ~……! や、やっぱり参加する! 僕も参加しようかな……! そ、そうと決まったら、もうさっそく行かない?」


 疑問は多く残るが、紅白が後衛に参加してくれるなら心強い。素性にはふれず、礼だけ告げた。


「それでは、これからの作戦をお伝えします。これより、荒野に出ます。グッドディードを探しに行ってくれたNPCたちを我々も追いましょう。グッドディードが見つかった場合は、そのまま僕たち二人に任せてください。それよりも前に他の被験者に見つかり、戦闘が始まってしまった場合……後衛の三名は、他の方々の防衛をお願いします」


「おまえはどうすんだ、唐梅」


 限武の問いに、静かに返す。


「……僕は、ここにいるNPCといっしょに前に出ます。……行きましょう、グッディが待っているはずです」


 待て、ができる相棒などではない。そう思いながらも、慎重に仲間とほら穴から出る。殺伐とした荒野に向かい、僕は足を踏みだした。

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