ほら穴作戦会議① 「さっそく問題を生じている」

 岩壁を下っていく途中に、僕たちはほら穴を見つけた。中をうかがう。敵は潜んでいない。いったんここに隠れることを決め、仲間とともに穴に入る。


 果てしなく続く荒野のどこかから、戦闘の音が聞こえてきていた。そう遠くはない。嫌な汗が出る。戦いの気配から逃げるように、ほら穴の奥にそれぞれ座りこんだ。


「さっきの龍だが、間違いなく他国の被験者のNPCだろうな」


「あんなデカいのが……」


「私たち……生き残れるのかな」


「大丈夫だよ~。あの龍もレアリティヤバそうだけど、うちにはレアリティ100のグッドディードがいるじゃん! まっさきに龍を倒しに行ったっぽいし、もしかしたらもう倒し終わってるかも~」


 緊張感のない声で、紅白がまさにおそれていることを言う。嫌な汗が止まらない。不安と期待が入りまじるほら穴で、僕だけが一人、強い焦燥しょうそう感にかられていた。


 さっそく問題を生じている。


 悪属性のNPCのみをグッディに倒させ、それで満足させること。これが僕の考えついた、殺人鬼のグッドディードを使って人を救う方法だ。


 これなら、暴れる他の悪属性を止めることにもなり、二重に被害を抑えることができる。協定に理解を示し、集まってくれた仲間も守ることができる。殺人鬼の相棒を使ってなせる正義。ギリギリ正義の政策。


 だが、この方法はグッディを説得し納得させることが最低条件だ。制限つきでも殺しができると言ったとき、グッディはまったく納得していなかった。なのに、僕は大事な説得を後回しにしてしまった。


 完全に判断ミスだ。


 それだけならまだしも、僕は謝罪という都合のいい自己満足行為に及び、あろうことかグッディから目を離した。その間にグッディは消えた。


 一瞬だって目を離してはいけないとずっと気をつけていたくせに、今日になって自分の欲を優先したのだ。結果がこれだ。どれだけ失態をくり返せば僕は気が済むのか。


 肝心のグッディを操作できないんじゃ、この協定は機能しない。人を救うことなんかできないんだぞ。本当にわかっているのか。しっかりしろ!


 こめかみを軽く殴る。焦りと怒りがせめぎ合う。無理やり横に押しやって、考える。


 グッディは今、何をやっている? 紅白の言う通り、すでに龍を殺している可能性もある。こちらを攻撃することなく飛んでいったあの龍が悪属性だとはとても思えない。


 そして一番の問題は、グッディは龍どころかその主人である他国の被験者にも手をかけているかもしれないということだ。そうなる前に、絶対に阻止しなくては。


 あの巨大な龍が弱いということはおそらくない。だからといって安心もできないが、グッディより強い可能性は0じゃない。

 協定を結んでおいて仲間には申しわけないものの、悪の頂点はいないほうが被験者たちにとって安全だ。倒してもらえたなら万々歳だが……。


「……ねえ、なんの音? これ」


「銃声だよ~。陽恋さんFPSとかやんないの~? 銃声なんて聞き慣れてるでしょ~普通」


 普通とはかけ離れている紅白に、陽恋は突っこむことすらしない。会話をやめて、仲間たちは銃声に耳をすましている。緊迫感が増す。


 時間がない。今はとにかく、グッディを見つけることがさきだ。一刻も早く探しだし、それから説得する他ない。思考をまとめて、立ち上がる。


「……遅れてしまいましたが、皆さんにこれからの作戦をお伝えします。これは本来なら、もっとあとでお話する予定だったんですが……僕の不手際で、グッドディードを見失ってしまいました。そのため、恥を忍んで今お話しします」


 仲間たちが僕を見た。銃声が近づいている。なるべく簡潔に説明をする。


「このさき、NPCにかぎらず被験者同士で戦う場面が増えていくと思います。基本的には、僕とグッドディードが前に出ます。ですが今回のような……不測の事態に備えて、皆さんの中からも戦える方を数名選抜していただきたいんです」

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