相棒がいない! 雲行きあやしい第三のクエスト 「グッドディードがいない」

 岩壁の崖ぞいで待っている仲間のところへ戻る。仲間たちはみんな不安をあらわにしていた。


 その原因が飛ぶ空に目をやる。なかなか全体の見えなかった鉄の龍が、長大な体の尾をようやく見せ、遠くの空に消えていった。荒野に静寂が帰ってくる。


「お待たせしてしまって、すみません。それではさっそくですが、今日の実験を勝ち上がるための作戦をお伝えします。ここは荒野フィールドです。まずは皆さん安全な場所に……」


「待て、唐梅。グッドディードがいない」


「……えっ?」


 好削の言葉に、一瞬思考が停止する。あたりを見回す。岩。仲間たち。空。……岩。


 いない。グッディが。どこにも。


「あいつ、龍を追っていったぜ。一目散に。めちゃ早だったな」


「ああ、めちゃ早だった。老眼のくせによく見えたな」


「老眼は遠くは見えるからな。……ちょっと待って、老眼にゴミが入ったかも」


「泣くな、ジジイ」


「ごめんなさい、唐梅くん。止められたらよかったんだけど……すごいスピードで。声をかける暇もなかったの」


 マフラー組が軽口を言い合うかたわら、陽恋が健気に謝ってくれる。どうにかうなずく。いや、陽恋が謝る必要はないと首をふる。混乱した頭を縦に横にふる。


「しかしあいつ、人型のNPCのくせにどうやって飛んでんだ?」


「……あ、れは……たぶん……まじゅつ、です……グッディ、は……魔術師、なので……」


 動揺に打ち震え、まだ泣きまねしている限武の質問にかろうじて答える。答えてすぐ、飛びだした。ハチマキが引っ張られる。がくんと後ろにのけぞった。


「止まれ、唐梅。どこに行くつもりだ」


「探しに行くんです!!」


「だからどこを探すつもりだ。この広い荒野の、いったいどこを探しに行こうとしている」


「そ、それは……」


「行動力があるのは結構だが、今はそれよりも機動力だ。おまえが探しに行くより、動物型のNPCに行かせたほうが早い。やつらなら鼻もきく」


 結んだばかりの協定の重要な役割を担うNPCがいなくなったというのに、好削は驚くほど冷静だった。仲間たちも同様で、自分よりよほど落ちついている。


「リリー、行ってくれ。グッドディードを探すんだ」


「マリンちゃんもお願い。でも、ちょっと広すぎるわね。鼻だけで見つかるかしら」


「グッディは龍を追ってったんでしょ~? じゃあ龍を探したほうがいいよ。そっちのほうがでかいから見つけやすいし」


 紅白が的確に補足し、動物型のNPCに主人たちが指示を出す。足の速そうな四足歩行のNPCたちが、先陣を切って荒野を駆けていった。


「演舞、おまえはここにいろ。グッドディードがいない今、この中で一番レアリティの高いおまえが頼みの綱だ。ひとまずは演舞に護衛してもらうとして……安全な場所に移動、だったか? 唐梅」


 最年長の限武が、ぼうっとしている協定のリーダーに確認を取る。形ばかりのリーダーに成りさがる僕は、ただただうなずく。


 レアリティ77の演舞を先頭に、とりあえず安全な場所を探そうと岩壁を下る。


 冷静で頼もしい仲間たちと行動することで、相棒に置いていかれた僕も少しは冷静に、なれそうでその実まったくなれなかった。






「おいおい見ろよ、侍軍団だ」


 岩壁の影に隠れ、金髪の男が仲間にささやいた。仲間が遠くの景色を見て歓喜する。


「まじだ! たまんねえ。ああいうのとやりたかった」


「ひゅー、刀じゃねえか。わかってるねえ。先頭の傘差してるやつがリーダーですかね、隊長」


 隊長と呼ばれた金髪の男が考えこむ。向こう側にそびえ立つ大きな岩壁。その側面を下っていく刀を持った集団をじっくり観察する。


 ふと気になって、軍服のボタンがすべて閉じているか確認した。どのボタンもしっかり閉じている。ふう、と息をつく。男は顔を引きしめる。


「たぁ~いちょ~お。いつまで隠れるんですか~? あ~んもう限界! お尻いた~いっ!」


 真面目な顔をしている男たちの後ろで、地面に座っている女が文句を言う。赤毛の女が尻をさすり、隣に立つ黒髪の女が呆れた声を出す。


「尻言うな。恥ずいっつの」


「じゃあケツ痛い、ですか?」


 すかさず少女が会話に入った。金髪よりさらに薄い、クリーム色の髪の少女だ。黒髪がさらに呆れる。それぞれ髪の色の違うかしましい三人組に、周りを取り巻く他の女たちが笑った。

 男よりも女の数が圧倒的に多い。


 関係ない会話を楽しんでいる女たちに、男はため息をつく。大勢のメスライオンに囲まれる少数のオスライオンは、ずっとこんな感じで過ごしているのか。地獄だな。


「まったく、女どもは……遊びに来てんのか。これはゲームだが遊びじゃあねえんだぞ」


「え~!? 同じじゃ~んっ!」


「いいか。俺が言ってんのはな、これはゲームだが遊びじゃない。俺たちは真剣にゲームをしに来てんだから……」


「真剣に遊び~!? きゃははは、矛盾してな~い?」


 女たちが大きく笑う。ショックを受ける。打ちのめされる。本当にライオンと話しているかのようだ。まるで話が通じない。


「隊長。言ってることはわかりますけど、真剣にやりすぎてスニーキングになっちゃってますよ。いつまで隠れてるんですか?」


 唯一男のロマンを理解できるクリーム色の髪の少女が、まっとうな指摘をくれる。男は真剣な顔に戻ると、うなる。


「まあ確かに、ちょっと長く潜伏しすぎたな。そろそろ飽き……行動に移したほうがいい」


 男がキリッと前を向き、直立する。それを見て女たちが立ち上がり、列になる。残る男たちがそこに加わった。金髪の男に向かい合い、軍服を着た集団が隊列を組む。


「全隊員に告ぐ。武器を構えろ。これより任務に移行する。次の標的は……ジャパニーズだ」

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