鉄の龍が泳ぐ電脳世界 分かれる被験者たち① 「この協定はやる意義がある」
ニヤつくのをやめ、グッディがまた驚愕した。本当に表情をコロコロ変えるやつだ。殺人鬼のくせに感情は殺そうとしない。ここ数日自分を隠してばかりの僕は、素直に相棒を羨む。
「なんでですか! どうしてですか! なんでこの私が殺す相手を制限されなくちゃいけないんですか! 主人だからといってそんな命令聞くと思ってるんですか!」
「こら、静かにしないか!!」
当のグッディよりもうるさい声で注意してしまう。それでもまだ、すごい勢いで反論してくる。グッディの口を両手で押さえこむ。力いっぱい封じ、無理やり話し続ける。
「がんばって証明してくれた矢先に悪いけどね、グッディ……! 僕はまだ、きみの力を信用していないんだ……! どうにも心配性でね……!」
後ろをちらっと確認する。被験者たちに聞こえていないか。ひやひやしつつ、岩影に身を潜めて二人でこそこそ話す。
「……いいかい、グッディ。この実験は世界規模だ。きみより強いNPCがたくさんいたってなんらおかしくない」
「そんなのいません」
「だから、まずは悪属性を全員倒してみせてくれないか。そうなってやっと僕はきみの話を……あいたた、指を噛むな! なんで怒るんだ!」
「当たりまえです! そんな時間のかかることしなくたって、私は頂点です。本来なら証明するまでもないことを、わざわざ証明してあげたんですよ。二度も! それなのにまだ証明しろって言うんですか。くどい。やりません。何を言われようと、もうやりません」
グッディがそっぽを向く。子どもっぽく怒ったかと思えば、冷静にくどいと切り落とす。こんな面もあるのか、と驚かされる。
昨日はなんとか丸めこんだものの、今回はそうはいかないようだ。想定こそしていたが、やはりグッドディードに同じ手は使えない。知性のある人型のNPC相手には、似たような手口は通用しないとわかっただけでも収穫だ。
一人の人間を相手にしているのと同じ。ここは一度引いて、本人が耳を貸す気になるまで待ったほうがいい。
「……理由は何もそれだけじゃないよ、グッディ。ただ、今は時間がない。あとで説明すると言ったろう。でも一つ言えるのは、この協定はやる意義がある。他のあらゆる属性を持ったNPCと協力しておくことは、今後必ず有利に――」
被験者たちがざわつくのが聞こえた。ふり返る。動かした足が地面にうまく着地できず、バランスを崩す。
振動。自分たちの立っている岩壁が揺れている。壁がところどころ崩れ、小石や砂が舞う。
実験が始まって、すでに時間が経っている。攻撃されているのではないか。急いで周囲を見渡すが、他国の被験者やNPCの姿はない。
揺れが大きくなる。グッディの腕に掴まる。全員が緊迫する中、グッディは嵐の気配を前にころっと上機嫌に戻っていた。
「どこかで戦いが始まったのか……!?」
遠くを見渡すため、岩壁のさきにある景色に目を向ける。
ごうっ、と強い風が巻き起こった。
突風に被験者たちが叫び声をあげ、地面にうずくまる。ハチマキのさきが激しく翻った。風にも揺れにもびくともしないグッディに掴まり、強風に飛んでいきそうになるメガネを押さえる。
「――ォォオオオオオン!!」
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