きまじめと魔術師の心理戦② 「……んえ?」
「……んえ?」
グッディが気の抜けた声を出した。思いもよらないことを言われた、と目を大きくし、だらしなく口をあけている。聞き間違いかも、いやでも、と首をふり、信じがたいものを見る目で僕の顔を覗きこむ。
「それを隠すのに必死なんだろう。さっきだって、攻撃をよけられていたじゃないか。まして人間相手に、だ」
グッディがころころと表情を変えた。今度は怒り。口ではなく目の端をつり上げて、むぐぐとうなる。
それを見て、僕は無表情をやめ、グッディに優しくほほえんだ。慈愛を感じとれる顔で、温和に、
「……何も新しい主人の前だからと、張りきらなくったっていいんだよ。僕らは相棒だ。対等だよ。弱いところを見せたって、構わないんだ」
「――!?」
これ以上驚けない、という顔でグッディが驚いた。気の毒なほど驚愕している。反論しようとぱくぱく口をあけるが、まるで言葉が出てこない。
もちろん、グッドディードは張りきってなどいないだろう。蟻を潰すのにがんばる必要などない。わかっているが無視する。代わりに、最後の誘導を投げかける。
「必殺技になんか頼ってないで、きみ自身の力で悪属性を倒してみせてくれないか。……大丈夫だよ。きみが悪属性の頂点だと証明できずとも、僕はがっかりしない。しないよ、グッディ」
ぼうっと聞いていたグッディが、ゆっくり目の色を変えた。怒りと不満の色に顔を染める。黙ってその様子を見つめ続けた。時間が長く、長く感じられる。
グッディが僕から目を外した。
「……2、3、4。……7、8」
すっかり静かになっている下に目を向け、数を数える。終えると、口をつり上げた。
突然首根っこを乱暴に引っぱられた。そのまま、加減なしに放り投げられる。
「えっ、なっ……どうわああああっ!!」
体が落下する。落ちる僕をほうって、グッディは爆発的な速度で飛びだした。矢のようにテスト空間の下方に飛行する。
頭から落ちていくさなか、飛び回るグッディの姿が視界をかすめた。
1体、2体、3体……黒い巨体のNPCに突っこみ、素手でその体を突き破っていく。
きみ自身の力。魔術を使わない、グッドディード単体の物理攻撃による力で、次々敵を殺していく。
殺人鬼の攻撃に血が飛び散り、被験者らの悲鳴が響き渡る。
どすん、と鈍い音を立て、僕は何かの上に落ちた。骨がきしみ、痛みに顔をゆがめる。しかし、あの高さから落ちたにしてはどうも痛みが弱い。
「……いぃってええ~。ただでさえ加齢で弱ってんのに。ジジイの腕、折れちゃう」
「バカを言え。軽すぎるくらいだ。もっと食べたほうがいいな」
声に顔を上げる。マフラーの二人組が、軽口を言いつつ自分を抱えていた。受け止めてくれたことの礼と謝罪を言おうとして、悲鳴のほうに意識がいった。
テスト空間が血にまみれていく。
グッディが大トカゲに低空飛行で近づく。手をスライドさせたかと思うと、大トカゲがその動きに合わせて、さばかれた魚のようにまっぷたつに割れた。捕まっていた女性が、噴出する血に汚れながら逃げだす。
方向転換し、グッディはまた別の悪属性を素手で攻撃した。血の海を飛び回り、おびえる被験者とNPCをよけて、次々と悪属性だけを
今さらながら圧倒される。抱えられたまま、眼前でくり広げられる相棒の活躍に釘づけになる。
グッディが止まった。腕を血だらけにして、テスト空間の中央に降り立つ。満足した顔でゆっくり首を動かすと、静かになった周囲を見渡した。
悲鳴をあげるものはもういない。無音と化したテスト空間。黒い体をしていたNPCたちが赤く色を変え、形も変え、あたり一帯に点在している。
「……さて。他に悪属性は?」
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