唐梅VSグッドディード 「戦う相手を間違えてますよ」
ガキン、と鈍い刃物の音がテスト空間に鳴り響く。
うながされるように、第二の戦いの火蓋が切られた。被験者たちが飛びだし、NPCが空間を駆ける。大きな振動に足もとが揺れる。
激動の中、僕はグッディに向けてふったはずの刀に、なんの手応えも感じられないことに気づく。早くも希望のうちの一つが消えたか。内心でかなり焦りつつ、刀の状況を確認する。
「ご主人様、何やってるんですか。戦う相手を間違えてますよ」
グッディが何事もない表情で言う。手には、僕が放った一刀がいとも簡単に受け止められていた。人さし指と親指で、刃というよりも葉を掴む軽さで刀身を挟み、こちらの攻撃を防いでいる。
「視力が落ちたんですか。メガネの度を調整したほうがいいですね」
他のNPCらの猛攻が飛びかう非常にやかましい状況で、これまたのん気にジョークを言い放つ相棒に、ばくばくとさらにやかましく自分の心臓が暴れだす。頼む、頼むから落ちついてくれと自分の胸に
「……きみに正義属性の武器がどれくらい効くのかと思ってね。僕は相棒として、それを知っておく必要があるんだ。今後、きみを守るために」
震えを抑えきれない声でグッディに返す。返しながら、血桜を持つ手に力をこめ、ぐいぐいと押してみる。びくともしない。こんなに押してるのに、といっそ半笑いになる。
属性には相性があるはずだ。一夜漬けならぬ一時漬けの知識ではあるが、まず間違いない。
悪属性と正義属性。この二つは明らかに対をなす属性だ。そして、グッディはこの正義属性の刀を自分は使えないと親切にもこぼしてくれた。嫌な感じだとも。
それは悪属性が正義属性に対し、相性が悪いということにならないか。
つまり、悪属性のNPCは正義属性のNPCや武器の攻撃を受けると、通常の攻撃よりもはるかに大きなダメージをくらう。ということが考えられる。
この刀を使うと自分は死ぬ可能性があるが、グッドディードが対の属性である正義属性の武器に弱い可能性と天びんにかければ、試す一択だ。それで死ぬなら、いっこうに構わない。
「私を守るため? 本当にそうですか」
鋭いグッディに冷や汗をかく。胸の肉と肋骨をすり抜けて、鳴り止まない心臓まで見透かされている気分になる。
ふいに、グッディがよそ見した。気がそれたのを見逃さず、足を踏みこもうとして、強い力で突き飛ばされる。勢いよく、後方に生えている白い壁にぶつかった。
オレンジ色の火炎が僕たちの間に割って入った。バチバチと火花が跳ね、顔にかかりそうになる。熱く、まぶしい火の粉が床に落ち、焦げ目をつくった。
火がやってきたほうを見る。赤い体をしたイノシシのNPCが、黒い大トカゲのNPCと戦っている。数打って当てろと口から火球を吐きだしていく。
これまでも、グッディには何度もこうして助けてもらった。だが、殺人鬼を前にこちらも心を鬼にする。
壁を離れ、走りだす。助走の勢いをつけ、再度グッディに斬りかかった。斬りつける寸前、グッディが手をふり、刀を弾き飛ばした。
衝撃で床に体を打ちつける。弾かれた血桜は豪快に飛び、弧を描いて、遠くの小山に突き刺さった。
「ご主人様。レアリティ30の武器なんて、レアリティ100の私には効きませんよ。私を攻撃する意味はありません。そもそも、こんなことが本当に私を守ることになるんですか」
火の粉が散って焦げ目だらけの床に座りこみ、肩で息をする。息を整え、前に立つグッディを見上げた。怒っている様子はない。が、機嫌がいいようにも見えない。表情を慎重にうかがい、返答を考える。
考えた結果、正直に答えることにした。
「……ああ、今のは嘘だよ。グッディ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます