ログインボーナスがおかしい! 「使えません」
妖、刀。頭の中でくり返す。妖刀、だと。殺人鬼の相棒の次は妖刀?
なんなんだ。どうしてこうも、妙なものばかり。運がないというよりも、悪い運がある。そうとしか言えないような状況じゃないか。
硬直している横で、相棒があっと声をあげた。パネルの画面を指さして言う。
「この武器、レアリティ30です。ご主人様」
パネルに目を戻す。確かに、星が30個ほど並んでいる。武器にもレアリティがあるのか。
相棒のレアリティが100。自称悪属性の頂点だと言うが、それが本当ならNPCのレアリティの上限は100ということになる。武器のレアリティ30というものが、どの程度のレアリティなのかはかり知れない。
おおかた他の被験者たちにもこのような武器が配られているのだろう。もちろん、互いに戦わせるためだ。NPCだけではなく被験者たちに戦わせ、死体を回収し研究する。これがサイバーセカンドの目的だ。
しかしそうなると、腑に落ちないことがある。矛盾している点があるのだ。血を絶対零度に置き冷やしましたと言わんばかりの冷血なホウライたちが、なぜこんな……?
理由はいくつか思いつくが、今考えたところで答えは出ない。矛盾をいったん置き、レアリティの下に書かれている刀の設定を確認する。
「……『今日び美しき血桜よ』。女を斬って桜の下に埋めた主人を、同じく桜の根もとで斬りつけた刀。……主人を斬った刀?」
考えこむ。まるで、使ったら死ぬという風に読める文ではないか。女を斬った主人を、制裁するように同じ場所で斬り殺した刀。あくまで設定だが……。
サイバーセカンドはゲームの世界観を再現していると謳っている。空を飛び、魔術を放つ相棒のようなNPCをつくれるのだから、こういった刀をつくることも電子空間では可能なのかもしれない。
刀が一人でに動いて、桜の根もとで斬られる様を想像する。使うと死ぬ、呪いの刀……?
「ズルいです、ご主人様。私のログインボーナスはハンバーガーだけだったのに」
相棒が口を挟んだ。指をくわえてこちらを見ているのを、横目で見返す。
……これをこいつに渡したら、どうなる?
ズルいズルいと連呼する相棒に、刀の柄のほうを向けて渡してみる。
「じゃあ、きみが使うかい」
間髪入れず、相棒が刀を奪った。あまりにすばやく、手を離すのが遅れて引っぱられる。僕がみっともなく転ぶのを無視して、刀を引き抜こうと相棒が構えた。
が、つり上げていた口をゆがめると、不機嫌に刀をガシャンとほうった。
「あっ、こら! もっと大事にしないか」
捨てられた刀を優しく拾う。何かに気づいたか。用心し、相棒の動向を探る。
「……どうした。気に入らなかったかい」
「使えません」
「え?」
「抜けないんです」
そう言って、相棒が出しっぱなしの情報パネルに近づき、操作した。相棒は日本語が読めるらしい。むむむとうなって、ここを見ろと刀の情報ページの一文を示す。
その一文に、もうずっと弾むことのなかった感情がほんの少しだけ浮き上がった。
「属性、『正義』!?」
短くも堂々たる文字に、思わず喜んでしまう。
武器にも属性が備わっているのか。妖刀と書いてあるものだから、てっきりまた悪いものがきたのだと思ってしまった。
まして、正義属性なんてものがあったとは。いや、悪属性がいるならその対の属性がいたっておかしくない。
謝るように刀をなでると、艶のある鞘が優しく光り、僕に返事をした。
「私たちNPCと同様に、武器にも属性があります。相性が悪いと、NPCには使えません。悪属性の私には、その刀は嫌な感じです」
ぶつぶつと説明してくれる相棒をかたわらに、少しだけわいて出た希望を胸にしまう。
悟られないよう、表情を戻して立ち上がる。血桜を自分のベルトに差しこむ。刀を腰に携え、ご機嫌ななめの相棒をふり返ると、決意をこめて声をかけた。
「……さあ、そろそろ15時だよ。準備はいいかい。僕の相棒」
部屋の端に現れた”ドア”を二人で通る。
昨日見たテスト空間と似た景色が目の前に広がった。ホウライが指示したテスト空間βなる場所だ。
β、と名がつくからには何か違いがあるはずだ。僕は周囲を見渡そうとする。見渡そうとして、硬直した。
被験者がいる。日本全国から集まった被験者たちが、いっせいにこちらを凝視していた。鋭い視線が僕たち二人に一度に突き刺さる。
「ほう。お噂の凶悪コンビが来たぞ。日本近畿地区会場の通過者だ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます