サバイバル生活解禁!? 「ポイントが稼げなければ飢え死に」

 ログインボーナス? 確か、オンラインゲームなどでログインしているプレイヤーにアイテムが配られるというサービスだったか。


 さきほど調べたことがさっそく役に立っているのを感じつつ、頭頂部をさすり、起き上がる。


 落ちてきたものを確認する。相棒がハンバーガーの包みをあけている横で、ものものしくカーペットに寝ているそれを拾った。


 刀だ。柄の先端に赤い房がついている。まあまあの長さがあり、重たい。おそるおそる、黒光りする鞘から取りだしてみる。すらりと輝く銀の刀身が顔を出す。


『ログインボーナスの配布とともに、情報パネルからアクセスできるストアを解禁しました。これより、被験者の皆さんには食べ物や日用品など各自で購入、調達していただきます』


「な、なんだって!!」


 驚きのあまり声が出た。聞き間違いだろうかと耳に手を当てる。ホウライはなんの気なしに続ける。


『クエストで得られたポイントは、ドルに変換できるようになっています。初期設定では被験者一人に100ドル、NPC一体に100ドルをお渡ししています。クエスト及び実験に参加し、被験者の皆さんはがんばってポイントを集め、サイバーセカンドでの快適な生活をお楽しみください』


 絶望の波がぐいぐいとひっきりなしに襲ってくる。


 隣を見ると、大食らいの相棒がばかすかとハンバーガーをむさぼっていた。あっという間にたいらげて、ソースのついたビニールをかじっている。


 実験への協力だけじゃなく、僕たちにサバイバルをしろだって? サバイバル生活のどこに快適さがあると言うんだ。不可思議なドル表記の意味がこれだったとは。


 ここの研究員らはいったいどこまで冷酷なんだ? 食事を用意したのは最初だけ。そんなシビアな。当然、このログインボーナスとやらのみでやっていけるわけはない。何より……。


 これでは、実験をやめさせることが僕たち被験者にはできないではないか。


 ポイントが稼げなければ飢え死に。クエスト及び実験をやめさせることは、ポイントが得られず死ぬことに繋がってしまう。実験の中止はすなわち、被験者全員の死だ。


 サイバーセカンドは、否が応でも被験者を実験に参加させる仕組みをつくっている。現実世界にも帰れず、生きるためには実験に参加し続けるしかない仕組みを。


『説明は以上です。実験開始の15時に”ドア”が各部屋に現れます。そこからまたテスト空間βに移行してください。それでは』


 アナウンスが終わる。静かになった部屋で、立ちつくす。


 ……実験をやめさせる方法は、今のところない。


 デモを起こしたとして、全員飢え死ぬだけだ。そもそも、実験をやめさせたいと思っているのが僕だけかもしれない可能性だってある。これはあとにもわかるだろう。


「ひじ……。……きみ、ホウライたち研究員を攻撃できるかい」


 隣の殺人鬼に聞く。


「無理ですね。ホウライたちは現実世界ですよ、ご主人様。こっちの世界にはいません」


 やはりそうか。行ったら半分しか戻ってこれない危険な電脳世界に、自分たちの体を投入するわけがない。やつらはずっと現実世界からアナウンスしている。電脳世界から僕たちが何をしたところで痛くもかゆくもないだろう。


 僕にできるのはせいぜい、実験が終わるまで被害を抑えることだが……。


 食事を終えた相棒を見る。ビニールをたたんで、コートの中にしまっている。悪属性というからにはそのへんにぽいっと捨てそうなものなのに、受ける印象が安定しないNPCだ。


 実験よりも、まずはこの相棒をどうにかしなくては。相棒がこいつじゃ、被害を抑えるどころの話じゃない。むしろ加害側だ。従順に見えるが、発言からしておそらく、素直に僕の言うことは聞かない。


 いっそ何もせず閉じこもり、こいつといっしょに飢え死ぬか。いや、空腹にさせてはならない。機嫌を損ねただけでも何をするかわからないんだ。そして僕も、こいつを残して死ぬわけにはいかない。


 実験に参加し、生きてこいつを見張らなくては。その上でこいつをコントロールし、何か解決策が見つかるまでの間、これ以上の被害を出さずに済ませる。そんなこと……できるできないじゃない。やるんだ。やれ。考えろ。


 思考を練る。考えがまとまらず、床に座りこむ。配布された刀がカチャンと音を立てた。音に気づいた相棒が、じろじろと僕の持つ刀を見つめる。


「ご主人様のログインボーナスはそれですか。武器ですね。パネルで調べないんですか」


 顔を上げる。パネルで調べる、とはなんだ。


 わからないながらも指をスライドさせ、情報パネルを出してみる。すると、画面が勝手に切り替わり、刀の情報が表示された。


「……『妖刀 血桜今日ちざくらきょうび』?」

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