レアリティ100! 最強の相棒 「私は――○○○の、頂点です」

 ロボットをすでに破壊し、男性を襲っているドラゴンの背中を駆け上がる。そこに座っている少年のフードを掴み、引きずり下ろした。二人して床に落ち、転がる。


 立ち上がろうとする少年の腹にまたがり、胸ぐらを掴む。


「ひゃっはっは。勇気あるなあ、おまえ」


「こんなことやめろ!! NPCはデータかもしれないが、被験者はそうじゃない! ゲームの世界観、であって、ゲームじゃないんだぞこれは!!」


 真剣な言葉をよそに、少年はからかうように笑い続ける。


「悪いなあ。ヒーローになれるチャンスだったのに。救けようとした相手、血まみれにしちゃってよ」


「――っ!!」


 怒りにわななく。その背後で、ずっしりと重量のある振動が近づいた。慌ててふり返る。ドラゴンがギラつく目でこちらを見ている。それから体をひねり、背を向けた。


「えっ?」


 攻撃しないのか。


 拍子抜けしていると、体に衝撃が走った。ぐぅえ、とえずく。胃液が上がる。ドラゴンの黒いしっぽが腹を蹴り、はねのけ、体を上へ投げた。数メートルほど飛んで、何かに激しくぶつかる。


「げほッ、げほ……!!」


「風邪ですか、ご主人様」


 のんきな声に顔を上げる。隠れていろと指示したはずの相棒が立っていた。


 受け止めてくれたのか、単にぶつかったのか。どちらにせよ、かなりの衝撃だったはずだ。それでも相棒は冗談を言う余裕があるらしい。


「……あ、ああ……ストレスがすごくてね……。……それより」


 自分が飛んできた方向を見る。


 少年がドラゴンの背に再び乗り、こちらのほうには目もくれず、テスト空間の中央に向かっている。暴れていた他のNPCたちも中央に集まってきた。その主人と思しき被験者らが、ニヤニヤと笑って会話を始める。


「残りはおまえらか。まだ結構いんなあ。俺のNPCでボコしてやんよ」


「レアリティいくつだよ」


「言うわけねえだろ」


 軽口を言い合い、互いの動向を探っている。ドラゴンと少年がそこに加わり、フードをかぶり直してつぶやいた。


「……さーて。最終決戦」


 それを合図に、殺戮をくり返した強靭なNPCたちが床を蹴った。すさまじい振動が空間に響く。咆哮とともに噛みつき、引っかき、攻撃し合う。中には火を吐くものもいる。


 やめろ、という小さくむなしい声が騒音にかき消される。声を届けようと叫ぶ。


「……やめろと言ってるのが聞こえないのかああああっ!!」






「あのやかましいの、なんて言ったっけ? アンケート見せて」


 ホウライの言葉に、他の研究員が動いた。情報パネルを出し、操作する。数秒して軽快な電子音が鳴り、ホウライの前にもパネルが現れる。


 研究室の大型スクリーンにうつしだされた暴れるNPCの映像。パニックムービーさながらの画を横目に、パネルの内容を確認していく。


「えー……被験者、唐梅。学生。……ああ、ヒーローになれる、の宣伝文句を見てここにきたのか。コードのあれね」


 鼻で笑うと、テスト空間の映像に目を戻す。意地悪く目を細め、吹きだしそうになるのをこらえる。


「で、そいつに配られたのが……」






「よせ! やめろ! 聞こえてるんだろう!!」


 テスト空間の中央に向かって声を荒げる。NPCたちが止まる様子はいっこうにない。


 まだ生き残っている他の被験者たちが、決戦を楽しむ狂人どもの姿を震えながら見守っている。それを受けて、また飛びだそうとする。ぐいっと強く後ろに引っぱられ、尻もちをついた。


「ご主人様、危険です。死んでしまいますよ」


「構うもんか! あれをやめさせるんだ!」


「ポイントを取られるからですか? 無理です、ご主人様。あれは”悪属性”です。殺しをやめるはずありません」


 聞き覚えのない言葉にふり向く。学ランの首根っこを掴まれたまま、相棒を見上げる。


「……悪……ぞく、せい……?」


 相棒が薄く笑う。


「NPCの属性です。悪属性のNPCは凶暴で、攻撃的な性格です。殺しや暴力が大好きです」


「……。……つま、り……」


「性分で殺しているんです。何を言っても無駄ですよ」


 わかったようなわからないような顔で呆然とする。考え、続く戦闘のほうを見る。


「……じゃあ、どうしたらいい……。どうしたら……」


 戸惑いに相棒が答えた。


「ここにいる悪属性は、どれもたいしたことありません。弱いです」


 ……よわ、い……?


 周囲の凄惨な光景を見渡す。白い床に映える血と、死体。隠れ、おびえる生存者の姿。


「これ……が、よわい、もんか……!」


「弱いです。証明できます」


 証明。相棒の言葉に、首をかしげた。その反応をなぜか笑い、愉快でたまらないという表情で、相棒が続きをのべる。


「ご主人様。私は――」


 目を大きく見開く相棒。僕に顔を近づけ、これ以上ないくらい口をつり上げた。


「――その悪属性の、頂点です」


 相棒が手をかかげる。背後に赤い光線が花開く。曼珠沙華まんじゅしゃげのように頭上に咲き、回転して光を放った。白い空間が、強い光で一気に赤く染まる。






 赤い光にくらんだ目を開ける。


 光がやみ、さきほどまでの白い世界に戻っている。


 しかし、何かが違う。妙に静かだ。


 周囲を見ようとして、やめる。ただ座りこむ。そして、聞こえない。と思う。


 聞こえない。自分と、相棒の二人。


 それ以外の息が、聞こえない。

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