第1章 掃き溜め世界のきまじめと魔術師
からうめじゃなくて、きまじめ① 「この不良め。更生させてやる!」
「CM見た? なんとか研究の最高峰! サイバーなんちゃらの提供する……」
「電子空間! サイバーセカンドだろ。電子空間サイバーセカンド」
「見た見た。ゲームの世界に入れるんだよな。VRと違って、体ごとゲームの世界に行くんだってさ!」
僕の通う高校もその例外ではない。砂漠蔵との恒例行事の数日後。クラス中の携帯端末からはおなじみのCMがひっきりなしに再生されていた。
「……電脳世界研究、だろう」
話題のCMにわき立つクラスメートに補足する。曇り空が教室を暗くし、肌寒い。が、世界中でとりざたされている実験の話にクラスの温度は高かった。
「そうそれ、電脳世界。よくわからんけど、ネットの中に入れるってことかね。まあゲームの世界には変わりないよ。唐梅も興味ある?」
「ないよ。それより、ノート」
半分ほど集めたノートを教卓の上でまとめ、提出をうながす。みんな浮き足だっているようだが、僕はそれどころじゃない。電脳世界より現実世界だ。クラスメートは構わず話を続ける。
「剣士に、魔術師に、悪の覇者になれる! ってね。俺は断然、悪の覇者。唐梅はどれよ」
「電脳世界で悪の覇者か。いいご身分だ。僕は現実世界で教師になるよ」
「出た出た、生真面目くん。からうめじゃなくて、きまじめに名前変更したら」
「いいからノートを出せ、ノートを」
「はは、悪の覇者がノートなんか書くかよ」
「なんだと、この不良め。更生させてやる!」
気の短い僕が飛びついて、取っ組み合いになった。クラスメートは僕の教師じみた行動にすっかり慣れてしまっているらしく、笑って対応される。くっ、これじゃまるで僕のほうが問題児みたいじゃないか。
「あっ、始まった!」
みんなが一つの携帯端末に飛びついた。なんだなんだ、と僕も覗く。例のCMが流れていた。
改めてCMに目を向ける。電子空間と思われる場所に、空模様をモチーフにした騎士が軽やかに登場し、剣をかかげた。電脳世界とやらに興味こそないが、この騎士の誠実そうな態度には好感を覚える。
CMのあとには特集が流れ始めた。世界中を騒がせている電子空間の実験についてまとめた特集のようだ。みんな夢中で見ている。呆れた。
『こちらはサイバーセカンド開発総責任者の一人、コード教授です。本日は取材に応じてくださり、ありがとうございます』
アナウンサーの隣に白衣の老年男性が現れる。外国人特有のいかつい顔つきだが、取材陣に
教授の来歴がざっと紹介され、家族写真がうつしだされた。教授の娘と思しき銀髪の少女が、写真の中で教授と二人、快活な笑顔を見せている。
『さっそくですが、サイバーセカンドの今回実施する実験について詳しくお願いします』
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