第16話 ひとの心

「……ほら。もう、顔を上げて?」

「意味、が……」

 

 恐る恐るといったように、ゆっくりと顔を上げたイリアちゃん。その表情からは、はっきりと困惑が見て取れる。

 

「意味が……意味が、わからない……。なんで、どうして……。シラナミアマネが、感謝するんだ……」

「嬉しかったからだよ。すごいなって、思うよ」

 

 悔やむ気持ちに、嘘がないのが伝わってる。謝罪の言葉は、本心だった。

 それは、つまり。

 


「地球人のこと。……ボク自身のこと。イリアちゃんは、本当にちゃんと……。本当に、大切に思ってくれてるんだね」

「っっ!?」

 


 自分が悪かった、と。

 そんなつもりはなかった、と。

 やってはならないことだった、と。

 

 反省すべき、軽率な、行いだったのだと──。

 


 きっと……実験に使う被験体モルモットや、道端でうっかり踏み潰した小さな虫を相手にしても。

 そんな言葉は出ないはず。

 

 イリアちゃんは、きっと。私たち地球人を……その存在を、命を。思いやれる気持ちを……きっと少なからず、持っているんだって。

 

 この子は、宇宙人なのに。そして私は、この子にとっては異星の……種族すら違う、赤の他人以上に遠い存在なはずなのに。

 それなのに……。

 


 まだ出会ったばかりの。他所の星の、自分とは違う生き物の。

 ……白波普しらなみあまねっていう存在を、決して軽んじてはいないんだって。

 


「ありがとう。尊敬する。あなたは……とても、とっても、優しいひとだ」

「そんな……ワタシは、ただ……っ」

 


 それがわかったから。ハッキリと伝わったから。

 

 なんだかそれは……すごく、すごく、素敵だなって。



 私は、そう、思ったんだ。

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