第15話 想定外

 た、高っ……!?!? やば、着地──っ!

 


 どすんっ!

 


「く……っっつ〜〜〜!」

 

 咄嗟だったわりには、衝撃を上手く殺せたと思う。

 でも、まだ体全体にビーンって痺れが残ってる。

 私いま、どのくらい飛んだんだろう……!?


 

「……おかしい。ありえないっ、今の高さは……っ! しっ、シラナミアマネ!」

「は、はいっ?」

 

 イリアちゃんの、初めて目にする表情。明らかに動揺してるってわかる。

 

「地球人の、本来の跳躍力はどの程度のものなんだ……!? 同じはずじゃないのか、ワタシたちと……! シラナミアマネは、普段からあのくらいの高さまで飛べるのか?」

「い、いや……? 普段の飛べる高さなんてハッキリとはわからないけど、あんなに高くジャンプできたことは多分、一度もないよ……」

 

 無事に着地できるか不安になるほどの滞空時間なんて、明らかに異常だし。

 

「えっと……普通なら、普段なら、全力でもせいぜいこのくらいの高さじゃないかな」


 言って、手で地面から数十センチの高さを示す。


「……増強度合いが異常だ。たとえワタシがガムそれを噛んだところで、跳躍できる高さがそこまで変わることは……無い。絶対に無い、はずなんだ……」

 

 そこまで呟くと、イリアちゃんは私に向かって深く頭を下げた。

 

「……すまなかった! ワタシたちと地球人の肉体は、酷似しているからといって……全くの同一というわけではないんだ。当たり前のことだ。わかりきっていたことだ。そして、『ドーピンガム』が君に与えた影響は……ワタシの、想定していた範囲のものではなかった……!」

「っ、そんな、謝らなくっても。おおげさだよ……? イリアちゃん」

 

 謝罪の声色には鬼気迫るものがあって。私の方が恐縮してしまう。

 

「別に怪我したわけでもないんだし……そこまで、深刻に」

「いいや……! ただ運が良かっただけだっ。浅はかだった。考えが足りなかったんだ。ワタシはまだ、地球人の肉体を理解しきってなんかいないのにっ。勝手に、まるでわかってるように、決めつけていてっ……。『ほんやくゼリー』も、同じことだっ。どんな影響を与えるのか、まだ調べも確かめもしてないものを! ……食べさせる、なんてだっ……! 本当に、本当に申し訳ないっ。冷静に考えられていたなら、有り得もしない行動だ。油断だ、浮かれすぎだ! 愚かだった……! バカだ、ワタシはっ」

 

「…………イリア、ちゃん」

 

 そんな矢継ぎ早な言葉は、今の彼女の心境を表しているみたいで。

 

 

 ……確かに。そう改めて言われてみれば、かなり恐ろしいことをさせられたのかもしれない。

 無事だったから、なんていうのは結果論だ。きっと、なにが起きてもおかしくなかったんだろう。

 ヒトにはただ美味しいだけの食べ物も、別の動物には猛毒になるなんてことは……珍しくもなんともない。それと同じだ。そしてそれは、前例が無い限りは確かめようもない。……そう、

 

 あえてキツイ言い方をするなら……毒味。あるいは、人体実験。私は今回……それらと同等のリスクを負わされた形だ。

 


 だけど。


 

 私は。


 それでも、私は。


 

「……ありがとう、イリアちゃん」

「え……」

 


 自分の行動を、心底悔やむイリアちゃんを見て。彼女の発する、言葉を聞いて。

 

 私は……。私は、とっても。


 

 

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